不動産法律基礎知識の第1回目は、一般法と特別法の違いについて、まずは概念の違いを解説し、次に具体的に不動産関連実務においてどのような適用関係があるかを見ていきたいと思います。
一般法と特別法の違い
一般法とは、国民生活全般にかかわる基本的な法律であり、「民法」が一般法に該当します。
一方で、特別法とは、特別な状況において適用される法律であり、例えば宅建試験の出題範囲である借地借家法、区分所有法、建築基準法、宅地建物取引業法、不動産登記法など民法以外の法律は特別法となります。
ここで重要なのは、特別法は一般法に優先するという原則です。
それでは、不動産法務において、具体的に一般法である民法と各特別法がどのような適用関係に立つか例をみていきましょう。
例1 民法と借地借家法
民法の賃貸借の規定によれば、賃貸借は50年以下でなければならないと規定されています。
(賃貸借の存続期間)
民法 第604条 賃貸借の存続期間は、50年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする。
2 賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五十年を超えることができない。
一方で、土地や建物の賃貸借のルールを定めた借地借家法では次の通り規定されています。
(借地権の存続期間)
借地借家法 第3条 借地権の存続期間は、30年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。
特別法優先のルールに従えば、建物所有目的の土地賃貸借においては、民法の最長50年ルールが排除され、特別法である借地借家法のルールが適用され、存続期間を30年以上とすることも可能、つまり、50年を超える土地の賃貸借契約が許容されることになります。
ここで注意が必要なのは、借地借家法が適用されるのは「建物所有目的」の借地であり、駐車場の賃貸借や太陽光パネルなどの土地の賃貸借については、借地借家法の適用はなく、一般法である民法の期間である「50年以下」ルールが適用されることです。
この違いは不動産の契約実務でよく出てくるので要注意です。
例2:民法と建築基準法
民法の規定によれば、建物を建造するには、境界線から50cm以上の距離を保たなければならないとされています。
(境界線付近の建築の制限)
民法 第234条 建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。
2 前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から一年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。
一方で、建築基準法63条においては、例外的に外壁を隣地境界線に接して設けることができるとされています。
(隣地境界線に接する外壁)
建築基準法 第63条 防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。
外壁についても特別法優先のルールにより、防火地域等においては、耐火構造の外壁とすれば、隣地境界線に接して建築できることになります。
実際に商業地を歩いていると、壁と壁がぴったりとくっついたお隣どうしという建物は多いですね。これは、建築基準法63条に基づき合法となります。
例3:民法と不動産登記法
民法の規定によれば、代理権は本人の死亡によって消滅すると規定されています。
(代理権の消滅事由)
民法 第111条 代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人の死亡
二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
2 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。
一方で、不動産登記法では、登記申請の代理人の権限は本人の死亡によっては消滅しないと規定されています。
(代理権の不消滅)
不動産登記法 第17条 登記の申請をする者の委任による代理人の権限は、次に掲げる事由によっては、消滅しない。
一 本人の死亡
二 本人である法人の合併による消滅
三 本人である受託者の信託に関する任務の終了
四 法定代理人の死亡又はその代理権の消滅若しくは変更
これは、不動産登記の委任を司法書士にお願いした後に、本人が死亡したとしても本人の生前の意思を尊重する趣旨であるとされています。
このように、一般法は基本的なルールを定めたものであり、同じような場面に直面する法律関係に直面するケースで特別法の定めがある場合は、特別法が優先適用されるようになっています。
以上、第1回目でした。
次回は、一般承継と特定承継について解説していきます!