書籍タイトル コンメンタール借地借家法
書評
日本評論社の法学シリーズ「コンメンタール」の借地借家法版
「コンメンタール」とはドイツ語で「逐条解説書」という意味だそうで、この書籍も借地借家法の条文を一つ一つ丁寧に説明していくというスタイルを取っています。
借地借家法の解説本は、大型書店の不動産コーナーに行けばずらりと並んでいますね。
簡単な入門書から分厚い解説書まで、どれを手元に置いておけばいいか迷います。
今回、ご紹介させていただく「コンメンタール借地借家法」は、正に「迷ったらこれ!」と言えるものであります。
中途半端な実務書だけでは、条文の表層的な説明しかなく、重要論点に関して判例や有力学説がどのような結論を導き出しているかが理解できない内容となっているが常です。
また、借地関係においては、新借地借家法をベースとした解説書では実務上重要であるはずの「旧借地法」における裁判例や実務対応の内容が薄すぎて使い物にならない書籍もたくさんあります。
法律書は「大は小を兼ねる」という観点で一つヘビーな解説書を持っておくべきと考えます。
私自身、不動産評価や不動産コンサルティングの際に、この本をネタ帳として使っています。
不動産鑑定評価の実務のバイブルである「要説:不動産鑑定評価基準と価格等調査ガイドライン」を読んだだけでは、借地借家関係の法的な権利形態を理解することはできません。
例えば、立退料、つまり借家権の鑑定評価やコンサルティングを依頼されたとしましょう。
借家権の法的根拠を理解できなければ、借家権の価格にアプローチすることは不能です。
むしろ、法的根拠を数値化する作業こそが借家権の評価と言えます。
これまでの鑑定評価の実務経験から言えば、この1冊があれば、重要論点についての理解を深めることができます。
権利関係が複雑な不動産の評価、継続賃料の評価の際などの際は、相当役立ちます。
また、不動産会社の方でテナントとの賃料交渉や立ち退き交渉の際には、法律上の理論的知識を固めてから交渉すべきであり、法律上どんな論点があるのか?を事前に把握しておくことは実務の相当な援軍になるはずです。
1冊始めから最後まで神経質に読む必要はなく、実務で土地又は建物の賃貸借関係を取り扱う際には、本書の条文箇所とその解説を読んでおくというクセを付けるだけで相当な知識量がストックしていけるはずです。
本書は読む本というより引く本ということで実務上、重宝する本であると言えます。
私の手元にあるのは、民法改正前の旧法に基づくものですが、今回紹介する第4版は改正民法の内容に適応しているとのことですので、これを機会に1冊手元に置いておくと当面は買い替えが不要です。
私は、残念ながらこれから買い替えです。
第1章 総則
第2章 借地
第3章 借家
第4章 借地条件変更等の裁判手続
こんな人におススメ
・不動産法務に携わる人
・不動産法務を掘り下げたい人
書籍データ
出版社 日本評論社
著者 稲本洋之助、澤野順彦