書籍タイトル 丸の内仲通り “憧れの街"を支えるストリートの秘密
書評
丸の内と言えば、大手町とともに日本を代表する大企業が集積するビジネス街であり、中でも三菱系企業の総本山である。
そして、丸の内の大地主と言えば、三菱地所
三菱地所と言えば、お堅いイメージであり、お坊ちゃま企業というのが定説であろう。
しかし、時代は変わり今や単体の土地にオフィスを開発して、賃料を収受するという単純なビジネスモデルでは成長しない時代に入っています。
あの三菱地所ですら「このままではダメだ」という危機感を強く持っているのです。
本書は、三菱地所を中心としたNPO法人である「NPO法人大丸有エリアマネジメント協会(通称:リガーレ)」の編纂によるエリアマネジメントの実例集
ひと昔前の丸の内は、平日の昼はビジネス街として活気があるのだが夜や休日になるとゴーストタウンとなるエリアでありました。
これに危機感を抱いた三菱地所が音頭を取って始めたのが、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)のエリアマネジメントです。
本書は、丸の内地区の活性化のために誰が何をどのように実行してきたかについての詳細な記録となっています。
本のデザインも素敵なので、楽しく眺めることができます。
ここで不動産投資の側面からエリアマネジメントを見ていきましょう。
投資回収の側面から見れば、ビルや商業施設への個別投資は「点への投資」、エリアマネジメントは「面への投資」であると考えます。
現代の「点への投資」は、土地を仕入れてゼネコンに発注し、完成したものを不動産投資ファンドやREIT等に売却して回収する手法で短期ビジネスと化しています。
一方で「面への投資」は、そのマネジメント力・実行力はもちろん、街全体の活力を向上させ、ひいては単体の点である個々の不動産にプラスの影響(外部経済による効果)を与えていくという超長期に及ぶ投資回収目線が必要となります。
こう考え見れば、エリアマネジメントを実行していくには、ヒト・モノ・カネが一定程度余裕のある企業でしか成しえないという逆説的な結論が導かれてきます。
本書を読んで、他のデベロッパーでは真似のできない取り組みだなと感じた次第です。
その理由としては、
・東京駅前という非常に優れた立地
・そして三菱地所の組織力
この3つを兼ね備え三菱地所に拮抗できるのは、大手デベロッパーのごく一角ということになるはずです。
エリアマネジメントは超長期投資です。
短期回転ビジネスに手を染めて利益を上げることしかできないデベロッパーには難しいでしょう。
残念ながら本書は、日本全国でのエリアマネジメントの実例集にはならないと考えます。
やはり丸の内という稀有な立地と三菱地所という組織が掛け算されて初めて成しえた事例というのが現実的です。
ただ、都市部でのエリアマネジメントの実例としては、参考になるネタが満載なので、知的好奇心の刺激になると思います。
以上、ダラダラとうんちくを並べましたが、エリアマネジメントに興味持った!という人にはご一読おススメです!
1 働くだけの街から、休日も人で賑わう街へ―「たそがれ」と評された街に命を吹き込んだ人たち(時代とともに変化してきた丸の内
働くだけの街からの脱却を目指して
車が中心の通りから、人が中心の通りへ)
2 人々が心地よく過ごせる街へ―丸の内仲通りのこだわり抜いた設計(人が心地よく過ごすための提案1「空間の心地よさ」
人が心地よく過ごすための提案2「施設・ビルとの融合」
人が心地よく過ごすための提案3「ディテール」)
3 地域の人を結び、人と人を結ぶ街づくり―丸の内仲通りのさらなる挑戦(多くの人を巻き込む街づくり 人の輪が街を変える
企業主催のイベントが丸の内仲通りに活気をもたらす
丸の内の将来像を見据えた、エリアマネジメント)
4 これからの仲通りとさらなる発展への取り組み(大手町への延伸
世界の人々が交流する舞台)
こんな人におススメ
・不動産業界、デベロッパー志望の就活生
・エリアマネジメントに興味ある方
書籍データ
出版社 幻冬舎
NPO法人大丸有エリアマネジメント協会 丸の内仲通り本編集室 (著)