書籍タイトル 負債650億円から蘇った男 アジア不動産で大逆転「クリードの奇跡」
書評
恥ずかしながら、この本を読むまでは、クリードは死んだ会社だと思っていました。
1990年代のバブル崩壊以降、不良債権のデューデリジェンス(DD)業務を皮切りに、日本の不動産証券化の黎明期から2008年のリーマンショックまで日本の不動産ファンドプレイヤーの中でもイケイケで知られたクリード。
2008年に発生したリーマンショック前には、カタカナ系の新興不動産会社が過去最高利益を叩きだした翌年にバタバタと倒産していきました。
パシフィックマネジメント、ダヴィンチ、アーバンコーポレーション、スルガコーポレーション、ジョイントコーポレーション等々、、、、
今回取り上げるクリードもこの破綻したカタカナ系の新興不動産会社の一角を占めることになりました。
クリードは、2009年1月、東京地裁に会社更生法の手続き開始申し立て、債務者主導の会社再建方法「DIP型会社更生手続」を行いました。
いちごオフィス投資法人の前身がクリード傘下のJ-REITであるクリード・オフィス投資法人ということを聞いた方もいらっしゃると思います。
その後、パタッと日本の不動産業界であまり名前を語られることのない「過去の会社」というのが大体の日本の不動産プレイヤーの認識でしょう。
本書の前段部分は、クリード社長である宗吉敏彦氏の自叙伝風に仕立てられており、日本のファンドバブルで破綻したクリードが何故、今、日本を捨てアジア新興国の住宅開発事業にコミットするようになったかという思考を学びとることができます。
驚いたのが、ベトナム、カンボジア、タイ、インドネシアまででも十分凄いなと思うのですが、ラオス、バングラデシュまで進出していること。
アジア事業の今後について考える
私自身、前職の大手デべで中国事業の責任者を10年程度担当いたしました。
2000年代の初めから2010年代の後半までは、大手デベロッパーがこぞって中国進出を行いましたが、遅く進出した会社は殆どキャピタルゲインが享受できず、現在も苦戦しているデべが殆どの状況です。
中国やタイは、既に「中所得国の罠」に陥っていることに加え、日本と同じく高齢化社会に突入していきます。
一方で、クリードが展開するアジア新興国は、「中所得国」に正に入ろうとしている国ばかりであり、かつ、平均年齢が20代~30代と人口構成が若い国ばかりです。
この目の付け所までは抜群のセンスだけで分かるのですが、クリードが凄いのは、そのスピード感と行動力です。
私の論評ばかりでは、イマイチ迫力がないので、以下、本書から一部引用してみたいと思います。
以上のような行動に移すのは、クリードのようなトップダウンでのバイタリティと勝負師たる度胸が必要なので、今の日本のデベロッパーで同じことができる会社は残念ながら殆ど皆無だと思います。
指を咥えて待つか?、挑戦してリスクを取るか?という挑戦状のような本
日本で事業展開する不動産プレイヤーに一石を投じる本です。
なお、本書は、日経産業新聞の連載「クリード再起アジアの地熱」の再編成したものが第一部であり、第二部はアジアマーケットのマクロ解説になっています。
第一部の面白さが際立ちすぎて、第二部に少し物足りなさを感じたというのが正直な感想です。
第1部 不動産ビジネスの醍醐味はアジアにこそある
1:ベトナム
2:カンボジア
3:ラオス
4:タイ
5:インドネシア
6:バングラデシュ
第2部 アジアマーケット点描
こんな人におススメ
・不動産業界で働く人すべて
・アジア事業に興味にある方すべて