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不動産法律基礎知識 第2回【一般承継と特定承継】

不動産法律基礎知識の第2回目は、一般承継と特定承継の違いについて、まずは概念の違いを解説し、次に具体的に不動産関連実務においてどのような適用関係があるかを見ていきたいと思います。

一般承継と特定承継の違い

一般承継とは、個人の相続や法人の合併など、被承継者(被相続人や被合併会社)の地位を、承継者(相続人、合併会社)がそのまま承継するという形態です。そのまま丸ごと承継するという意味において、包括承継人とも言われます。
一方で、特定承継とは、売買、交換、贈与などを指し、一般承継以外の承継となります。

一般承継の具体例

考え方としては、相続や合併などの一般承継の場合においては、承継した人や会社が承継された人や会社の地位をそのまま受け継ぐということです。

相続などで一般承継が生じた場合においては、被相続人(亡くなった人)の権利義務を相続人がそのまま受け継ぐことが原則となります。
これは、会社の合併などでも同じであり、被合併会社(無くなる会社)の権利義務を合併会社(存続する会社)がそのまま引き継ぐことが原則となります。

例えば、都市計画法による開発許可に基づく地位の承継については、次のように定められています。

(許可に基づく地位の承継)
第44条 開発許可又は前条第一項の許可を受けた者の相続人その他の一般承継人は、被承継人が有していた当該許可に基づく地位を承継する。
第45条 開発許可を受けた者から当該開発区域内の土地の所有権その他当該開発行為に関する工事を施行する権原を取得した者は、都道府県知事の承認を受けて、当該開発許可を受けた者が有していた当該開発許可に基づく地位を承継することができる。

つまり、相続や合併を原因とした一般承継においては、被承継人が取得した開発許可をそのまま承継することができるが、その他の原因(例えば売買)により権限を取得した特定承継人は都道府県知事の承認を改めて受けなければならないとされています。

このほか、宅建試験などの資格試験では、代理、時効、賃貸借などの各論点において相続による一般承継が発生した場合における権利義務の引継ぎをどのように処理するのかを問われる問題が多いです。

ただし、一般承継の場合においても、死亡した人(被承継人)が有していた生活保護受給権や資格試験合格者である地位などの本人のみが保有する権利(一身専属権)については、承継されないことに注意が必要です。

特定承継とは?

特定承継の中で最もイメージしやすい売買における承継を考えてみましょう。
売買などの特定承継が生じた場合、承継人(売買の場合は買主)が被承継人(売買の場合は売主)の権利・義務をどこまで承継するのかが論点となることが多いのでこれを横断整理しておく必要があります。

宅建試験などの不動産系資格試験でよく論点となるポイントを整理してみました。

【共有物の分割と特定承継問題】

・共有物の分割によって公道に通じない土地を生じた場合には、その土地(袋地)の所有者は、他の分割者の所有地(残余地)のみを無償で通行できる。この無償の通行権は残余地について特定承継が生じた場合においても消滅しない。(民法213条及び判例)
・共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる(民法254条)。
・5年を超えない範囲で共有物分割禁止特約をすることができるが、この特約の効力を特定承継人に対抗するには、登記を要する。(民法256条及び不動産登記法59条6号)

【区分所有法と特定承継問題】

建物区分所有法においては、特定承継人に対しても効力が及ぶ旨の規定が随所に見られます。

マンションを買った人にも売主の義務を承継してもらわなければ困りますからね。

・第三者が区分所有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行うことができる。(区分所有法第29条2項)
・規約及び集会の決議は、区分所有者の特定承継人に対しても、その効力を生ずる。(区分所有法第46条1項)

【建物賃貸借と特定承継問題】

借地借家法の適用のある建物賃貸借の場合においては、賃貸人側の特定承継、賃借人側の特定承継の局面とそれぞれを整理しておく必要があります。ポイントとしては、対抗力の要否と敷金の取扱いの2点です。

1.賃貸人側の特定承継

現所有者である賃貸人が建物を新所有者に売渡し、賃貸人が変更した場合における特定承継のケースを見てみましょう。いわゆるオーナーチェンジの局面です。

効力について

この場合、賃貸人の地位の移転においては、わざわざ賃借人から承諾してもらう必要はなく、賃貸人の地位は売買により移転ますが、注意すべきは、新賃貸人が賃料を請求するには、所有権の移転登記を備えておく必要があることです。

敷金の取扱いについて

賃貸人に承継があった場合においては、敷金返還債務は新所有者である新賃貸人に引き継がれることになります。ただし、新賃貸人に引き継がれる敷金は、旧賃貸人が有していた債権額を差し引いた残高となることに注意が必要です。

2.賃借人側の特定承継

次に借主が賃借権を譲渡して賃借人に特定承継が生じたケースを考えていきます。
(転貸については、従前の賃貸借が継続するので特段承継の問題は発生しません。)

効力について

賃借権はあくまで債権であり、賃借権の登記が行われることは殆どないので、借地借家法では、建物賃貸借の場合における対抗力を引渡しでOKということにして借主保護を図っています。ここで重要なのは賃借権の譲渡・転貸を行うには、賃貸人の承諾が必要なことです(民法612条1項)。 賃借権の譲渡・転貸につき、賃貸人の承諾が無い場合は、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます(民法612条2項)。
賃貸借契約は当事者間の信頼関係を前提としているというのがその理由です。
ただし、判例においては、信頼関係を破壊する背信行為と認めるに足りない特段の事情のある場合、つまりやむをえない事情がある場合においては、賃貸人は解除ができないとされています。

敷金の取扱いについて

賃借権の譲渡に伴い賃借人に特定承継があった場合においては、敷金返還債務は新賃借人には、引き継がれません。あくまで、敷金は旧賃借人が差し入れたものであり、賃借権の譲渡に伴い、一旦は賃貸人と旧賃貸人との債権債務関係を精算して、新賃借人から新たに敷金を差し入れてもらうのが原則となります。
ただし、実務では、賃借権の譲渡の際に敷金返還請求権についても債権譲渡の方式で新賃借人に譲渡して事実上承継させるといった方法が比較的多いです。

賃貸借の場合は、論点が錯綜するので、ややこしいですね。

その他、一般承継と特定承継の顕著な違いの例を挙げてみましょう。

一般承継 特定承継
農地法3条の許可 許可不要(ただし届出義務あり) 許可必要
不動産登記の申請権者 単独申請が可能 共同申請が必要(ただし例外あり)
対抗要件 あくまで当事者の地位をそのまま承継するので不要 第三者に対抗するには、登記等の対抗要件が必要(建物賃借権の場合は引渡し、土地賃借権の場合は、建物の登記が必要)

 

以上が一般承継と特定承継の論点でした。
次回からは宅建試験などの資格試験で必須の知識である無効と取消しについて見てみましょう。

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