書籍タイトル 都心集中の真実 ──東京23区町丁別人口から見える問題 (ちくま新書)
書評
本おススメ書籍シリーズで何度もご紹介させていただいている三浦展さんの都市論本
都心への一極集中が叫ばれていますが、一体どこに何がどのように集中しているのか?ということは人口動態や所得状況だけみても判然としません。
本書では、東京23区にスポットを当てて人口動態と所得状況、婚姻状況などを掛け合わせることにより、23区の町丁別に分類した状況を縦に横に分析していきます。
人口増加の理由として三浦さんが掲げるのは
②金持ちが特に都心で増加している。
③女性、特に若い女性が増加している
④子供が増加している。つまりファミリー層も増加している。
という4つの特徴について各区の状況を町丁別に対比して分析していきます。
まず、本書に書かれている人口が増減についての特徴を整理すると
増加している23区の町丁の特徴として
主として都心3区と江東区の、特にウォーターフロントのマンション建設によるもの
具体例:江東区東雲1丁目、有明1丁目、豊洲3丁目など
減少している23区の町丁の特徴として
古い大規模団地のある地域、駅前の木造密集地域
具体例:江戸川区春江町4丁目、板橋区高島平2丁目、北区赤羽台1丁目、品川区八潮5丁目など
人口の増減の特徴として面白いのは、旧東京市の外側で大正時代から昭和初期にかけて人口が増加した地域が逆に人口減少に至っている事実です。
都心では高度経済成長期と逆ベクトルの状況が起こっており、都心3区でベビーブームが起こるなど勢いのあるファミリー層による居住地の選択の価値観が変化しています。
多摩センターなど高度経済成長自体に一斉に当時の若い世代が入居を進めた郊外地域が時代の変遷とともに一斉に高齢化し、利便性重視の現代的感覚に適合できず、子育て世代や若年世代にとって魅力の無い街になっているとの指摘はその通りだと思います。
一方で、私も三浦さんと同じく、画一的な都心のタワーマンション開発は旧来の団地開発を縦に伸ばしただけだとも感じてしまいます。
都心のタワマンが集中する豊洲や武蔵小杉って便利なようで何か白々しい感じもしてしまいますね。
三浦さんの提起するように今後の都市に必要なのは「住む働く遊ぶが混在する要素」であると思います。
その他、本書は面白いネタの宝庫です
・西葛西にインド人が増えた理由は荒川がガンジス川のように見えるから?
・生活保護受給率が最も高いのは台東区
・スターバックスがある地域は未婚女性比率が高い地域と似ている
・今や出生数が最も多いのは都心3区であり、西側郊外住宅地の出生率は低迷している
なるほど~と思わせるネタがぎっしり詰まった一冊です。
第1章 大久保1丁目では20歳の87%が外国人!! ――外国人から見た都心集中
第2章 港区と足立区の格差は1.57倍から3.06倍へ ――所得から見た都心集中
第3章 中央区の30―50代の未婚女性は6000人も増えた! ――女性から見た都心集中
第4章 多摩市の出生率1.16は渋谷区1.07とさして変わらぬ低水準 ――出生数から見た都心集中
第5章 郊外に可能性はあるか? ――ジェンダーから見た都心集中
こんな人におススメ
・不動産、デベロッパーに就職を考えている学生
書籍データ
著者 三浦 展
1958年生まれ。一橋大学社会学部卒。パルコ入社後、マーケティング誌「アクロス」編集長を務め、三菱総合研究所を 経てカルチャースタディーズ研究所を設立。消費、都市、郊外を研究する。主著に『あなたの住まいの見つけ方』(ちくまプリマー新書)、『下流社会』『東京郊外の生存競争が始まった! 』(光文社新書)、『第四の消費』(朝日新書)、『ファスト風土化する日本』(新書y)、『東京田園モダン』(洋泉社)、『昭和「娯楽の殿堂」の時代』(柏書房)などがある。