書籍タイトル クリエイティブ都市論―創造性は居心地のよい場所を求める
書評
2008年に刊行された「クリエイティブ資本論」で一世を風靡したリチャード・フロリダによる都市論
アメリカの都市を前提とした調査研究でありますが、視点が非常にユニークであり、現代都市の「意外な本質」を抉り出してくれます。
副タイトルとして「創造性は居心地のいい場所を求める」とある通り、今や都市の主役に躍り出たクリエイティブクラス
クリエイティブクラスとは、ワーキングクラス、サービスクラスなどの型にはまった仕事を行う人々の対極概念であり、創造性を発揮して仕事を遂行する人々のことです。
何もアーティストなどの芸術的クリエティブさだけでなく、工場労働者であっても業務改善や革新を追求する人々まで含む概念であり、従来のホワイトカラー、ブルーカラーの定義ともやや異なります。
このクリエティブクラスが実際にどこに住み、どこに住みたがるか?、そして、このクラスを惹きつける都市の特徴は?ということをアメリカの各都市における実証データで明確にしていきます。
実証データにおけるリチャードフロリダの主張
都市間競争の時代に重要なのは、クリエイティブクラスの集積
クリエイティブクラスが集まるのは寛容度の高い都市
寛容度の高い都市とは、ゲイやボヘミアンが居心地よく住める街
本書は数年前のアメリカの状況を中心に書かれていますが、翻って日本の今の状況を見てみると、このような兆しを感じることが多くなってのではないでしょうか?
そういう意味では、渋谷は強そうな気がします。
元々渋谷やビットバレーとも言われ、日本のIT企業のメッカとしての認知が強く、正に現代のクリエイティブクラスが集積する街というブランドを有しているところに、最近は同性カップルにも優しい街としても認知度が高まっています。
渋谷区では2015年4月から「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」が施行されており、区としてダイバーシティを推進しています。
同性のものでも「パートナーシップ証明書」を発行するなど画期的な取り組みを行っています。
本書の主張が正しいとすると、渋谷区は日本で最もクリエイティブクラスを惹きつけやすい街と言っても過言でないでしょう。
一方で、旧来の価値観に基づく画一的・排他的な街はこれからクリエイティブクラスから敬遠される可能性もあり、ゲイやボヘミアンを蔑むオジサンたちが密集する街は凋落していくのでないか。
例えば、新宿西口エリア、大手町エリアなどは高層ビルが林立していますが、本当に本書で言うようなクリエティブな価値観に合致しているか?を考えると懐疑的にならざるを得ません。
また、昨今では、新型コロナウイルスの影響もあり、リモートワークで都市の拡散が進むという意見もありますが、本書を読めばむしろ逆に相変わらずクリエイティブな人ほど集積を好むのでないか?という感想を持つに至りました。
多様性なき都市は凋落していくことは必然。
これからの都市開発には、どんな人を惹きつけたいのか?というソフト面抜きには語れない時代に。
都市開発や街づくりに携わる人には是非一読していただきたい本です。
住む場所の選択
第1部 メガ地域の世紀(スパイキーな世界
メガ地域の台頭
集積の力)
第2部 場所の経済学(移動組と定着組
才能の集まる場所
ジョブ・シフト
スーパースター都市)
第3部 場所の心理学(輝ける幸せな場所
人々の欲求を満たす場所
都市の性格心理学
最高の居住地を見つける方法)
こんな人におススメ
・住宅コンサルタント
・不動産、デベロッパーに就職を考えている学生
書籍データ
出版社 ダイヤモンド社
著者 リチャード・フロリダ
トロント大学ロットマン・スクール・オブ・マネジメント教授。同スクールの地域競争力に関する研究所のディレクターも務める。創造性を持った人材、すなわちクリエイティブ・クラスが経済の主要な担い手となることを提起し、著書のThe Rise of the Creative Class(邦訳『クリエイティブ資本論』)、The Flight of the Creative Class(邦訳『クリエイティブ・クラスの世紀』)は世界的ベストセラーとなった。