不動産民法

民法改正と不動産業(売買)への影響: 契約不適合責任(深掘編)

前回の契約不適合責任(導入編)にて、今回の民法改正による「契約不適合責任」は、旧法の「瑕疵担保責任」のリニューアルバージョンである旨をザクっと解説いたしました。

民法改正と不動産業(売買)への影響: 契約不適合責任(導入編)

今回はもう少し掘り下げて、何が一体どう変わったかをやや詳しく見ていきます。

この契約不適合責任には、今回の債権法の改正「債務不履行による損害賠償」「債務不履行による契約解除」の論点も絡んでくるので、内容を完全に理解するには、相当ヘビーな内容となっています。逐次言及しながら進めていきます。

それでは、瑕疵担保責任と契約不適合責任を比較しながら見てみましょう。

法定責任⇒履行責任へ

【改正前:瑕疵担保責任】

改正前の民法の考え方では、不動産のような特定物(つまり代わりが利かないモノ)については、原則的に買主に引き渡してしまうと引き渡し債務の履行が完了して、債務不履行を観念することがありませんでした。

もし、買主が契約当時に認知しえなかったキズモノを引き渡されたとしても、債務不履行にならないのは、さすがに不公平だろうということで、法律が特別に定めた責任(法定責任)が瑕疵担保責任です。

瑕疵担保責任の要件としては、「隠れたる瑕疵が存在すること」、つまり、買主がその瑕疵について知らなかったことが要求され、売主側から見れば無過失責任を負う、つまりその瑕疵の発生について過失があろうが無かろうが責任を負うというものとなっていました。

(当然ながら、売主が当該瑕疵を知っていて買主に告げなかった瑕疵については、責任を逃れることはできません。これは改正後でも変更されていません。)

【改正後:契約不適合責任】

一方で、改正後の契約不適合責任においては、このような瑕疵が存在した場合においては、債務不履行の特則として処理しようということに考え方が修正されました。

(厳密には、債務不履行の一種であり、債権の債務不履行とは異なる部分があるので注意。例:消滅時効の期間)

引き渡されたモノが契約の内容に適合しているか否かで判断されることになり契約をきちんと履行することができなければ、債務不履行の責任を負う(履行責任)というのが契約不適合責任です。

このように処理の考え方が根本的に変わったことに加え、売主への責任追及方法も修正されることになりました。

買主の権利の多様化

【改正前:瑕疵担保責任】

改正前民法においては、瑕疵があった場合においては、損害賠償か契約解除の2つしか認められていませんでした。

【改正後:契約不適合責任】

これに対し、改正後の契約不適合責任においては、バラエティー豊かな解決方法を用意することになりました。

内容が重要なので、超重要なので条文も掲載しておきます。

この条文の内容は、資格試験で狙われる論点が盛りだくさんなので、受験生は一度じっくり見ておいた方がいいでしょう。

改正民法第562条 (買主の追完請求権)
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2.前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
改正民法第563条(買主の代金減額請求権)
前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2.前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3.第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
改正民法第564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
前二条の規定は、第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使を妨げない。

以上のように、従来の瑕疵担保責任では認められてこなかった「追完請求」「代金減額請求」ができるようになったのが大きな改正点です。

追完請求の内容を見てみると、修補請求、代替物の引き渡し、不足分の引き渡しという3つのメニューが用意されています。

不動産に関して言えば、代替物がそもそもないこと、不足分の引き渡しは現実的に不可能なことを考えると、実質的には、修補請求ができるようになったというのが今回の大きな改正ポイントになります。

(※数量不足については、旧法565条に規定があったが今回削除されているため、上記の契約不適合責任の中で処理することになっている。)

また、上記の追完、減額請求がなされたとしても、損害賠償や解除をすることも当然にできます

なお、今回の民法改正にて損害賠償、契約解除が大きく変更となっています。損害賠償と契約解除については、相当内容が重いので別に解説の機会を譲ることとして、今回は契約不適合責任に焦点を当てて説明しています。
   
以上のメニューをまとめると次のようになります。

※契約解除については、今回の民法改正で、根本的変更がなされているので要注意。

消滅時効:請求から通知へ

【改正前:瑕疵担保責任】

「買主が知った時から1年にしなければならない。」とされ、1年以内の明確な権利行使が必要とされてきました。

【改正後:契約不適合責任】

改正民法第566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

以上の条文をよくよく眺めてみると次のようなルールに変更されていることが分かります。

・種類又は品質については「知ってから1年通知ルール」であるが、数量は債権の一般の消滅時効(知ってから5年、権利行使から10年)のルールとなる。
・旧法では「請求する」=つまり権利行使することが必要であったが、改正後は単なる「通知」でOKとなった。

※債権の消滅時効のルールも今回の民法改正の重大論点なので、こちらについても別の機会に解説します。

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