書籍タイトル 地方創生大全
書評
今や地方では、人口減少による経済の地盤沈下は正にそこにある危機であり、様々な施策を行うが不発に終わり、財政状況が悪化している自治体の予算を活性化策で食いつぶしてしまうという笑えない話が全国のあちこちで起こっています。
真面目に取り組んでいるのだけれど、一向に数値が改善しない。
何故なのか?
本書は、これらの行き詰った地方の問題について、まちビジネス事業化である木下斉さんが自らの体験に基づいて分析した本です。
地方の掲げる構造問題を次のような5つの視点から整理していきます。
・モノの使い方
・ヒトのとらえ方
・カネの流れと見方
・組織の活かし方
本書は、冒頭部分から従来型の地方活性化策をぶった切っていきます。
多くの地域が行う「ネタ選び」は、「成功事例探し」から始まります。その時々で話題になっている先進地域に視察に行って、「うちの地域でも同じような取り組みをしてみよう」という話になって盛り上がります。他の地域で成功している事例が自分の地域にも効果がある、まるで特効薬のように見えるわけですが、そんなんで成功できるのであれば、誰も苦労しないわけです。
よくある地方活性化策では、ゆるキャラ、特産品開発、地域ブランド化、ビジネスプランコンペなどの綺麗ごとが並び建てられます。
このような綺麗ごとが果たして効果があるのか?
成功事例ばかりに目が向けられているが、失敗事例からこそ学ぶべきでないのか?
成功事例と失敗事例の両方をきちんと研究して分析するというのがビジネスの鉄則ですが、何故か、地方活性化は他の地方自治体で成功した事例ばかりに目が行きがちです。
これらの地方活性化策の盲点について、本書は切り込んでいきます。
「ブランドがあるから商品が売れるのでなく、商売の結果としてブランドが形成される」
各章の末尾に用意されている本書の「危険度チェックシート」で地方活性化をチェックできるようになっています。
本書に出てくる「お気楽アイディアマン」「ゴマすりコンサルタント」などは、一般のビジネスでも跋扈していますね。
本書はビジネス書としても面白い視点を提供してくれます。
不動産業界においても、昨今は、コンセッション方式で地方の空港の運営受託を行う例が増えてきていますね。
地方の活性化にどのような視点が必要か?
できれば不動産関連ビジネスに従事する方々にも一読していただきたい書です。
まちビジネス事業家
1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2008年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行ってきた。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主な著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK新書)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(日経BP)、『地方創生大全』(東洋経済新報社)がある。毎週火曜配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」もある。
以上、東洋経済ONLINEより
第1章【ネタの選び方】「何に取り組むか」を正しく決める
ゆるキャラ
大の大人が税金でやることか?
→地元経済の「改善」に真正面から向き合おう
特産品
なぜ「食えたもんじゃない」ものがつくられるのか?
→本当に売りたければ最初に「営業」しよう
地域ブランド
凡庸な地域と商材で挑む無謀
→売り時、売り先、売り物を変え続けよう
プレミアム商品券
なぜ他地域と「まったく同じこと」をするのか?
→「万能より特化」で地方を救おう
ビジネスプランコンペ
他力本願のアイデアではうまくいかない
→成功するためには「すぐに」「自分で」始めよう
官製成功事例
全国で模倣される「偽物の成功事例」
→「5つのポイント」で本物の成功を見極めよう
潰される成功事例
よってたかって成功者を邪魔する構造
→成功地域は自らの情報で稼ごう
第2章【モノの使い方】使い倒して「儲け」を生み出す
道の駅
地方の「モノ」問題の象徴
→民間が「市場」と向き合い、稼ごう
第3セクター
衰退の引き金になる「活性化の起爆剤」
→目標をひとつにし、小さく始めて大きく育てよう
公園
「禁止だらけ」が地域を荒廃させる
→公園から「エリア」を変えよう
真面目な人
モノを活かせない「常識的」な人たち
→「過去の常識」は今の〝非常識〟だと疑おう
オガールプロジェクト
「黒船襲来! 」最初は非難続出
→「民がつくる公共施設」で税収も地価も高めよう
第3章【ヒトのとらえ方】「量」を補うより「効率」で勝負する
地方消滅
「地方は人口減少で消滅する」という幻想
→人口増加策より自治体経営を見直そう
人口問題
人口は増えても減っても問題視される
→変化に対応可能な仕組みをつくろう
観光
地縁と血縁の「横並びルール」が発展を阻害する
→観光客数ではなく、観光消費を重視しよう
新幹線
「夢の切り札」という甘い幻想
→人が来る「理由」をつくり、交通網を活かそう
高齢者移住
あまりにも乱暴な「机上の空論」
→「だれを呼ぶのか」を明確にしよう
第4章【カネの流れの見方】官民合わせた「地域全体」を黒字化する
補助金
衰退の無限ループを生む諸悪の根源
→「稼いで投資し続ける」好循環をつくろう
タテマエ計画
平気で非現実的な計画を立てる理由
→「残酷なまでのリアル」に徹底的にこだわろう
ふるさと納税
「翌年は半減する」リスクすらある劇薬
→税による安売りをやめ、市場で売ろう
江戸時代の地方創生
なぜ200年前にやったことすらできないのか?
→江戸の知恵を地方創生と財政再建に活かそう
第5章【組織の活かし方】「個の力」を最大限に高める
撤退戦略
絶対必要なものが計画に盛り込まれない理由
→未来につながる前向きな「中止・撤退」を語ろう
コンサルタント
地方を喰いものにする人たち
→自分たちで考え、行動する「自前主義」を貫こう
合意形成
地方を蝕む「集団意思決定」という呪い
→無責任な100人より行動する1人の覚悟を重んじよう
好き嫌い
合理性を覆す「恨みつらみ」
→定量的な議論と柔軟性を重視しよう
伝言ゲーム
時代遅れすぎる、国と地方のヒエラルキー
→分権で情報と実行の流れを変えよう
計画行政
なぜ皆が一生懸命なのに衰退が止まらないのか?
→誤った目標を捨てよう
アイデア合戦
現場を消耗させる「お気楽アイデアマン」
→実践と失敗から「本当の知恵」を生み出そう
こんな人におススメ
・地方の不動産を取り扱う不動産プレイヤーの方
書籍データ
出版社 東洋経済新報社
著者 小林 斉