不動産ファイナンス 不動産民法

不動産ファイナンス入門 その6【ローンと担保(物的担保)】

不動産ファイナンスにおいて重要な役割を果たす担保。

担保には、物的担保と人的担保に分かれます

不動産ファイナンスに関連する物的担保の代表例としては、不動産そのものに設定する抵当権がまず思い浮かびますが、その他火災保険や信託受益権に対する質権も思い浮かびます。

また、民法の規定にはない特殊な担保として譲渡担保や仮登記担保などもあり物的担保の種類は非常に多いです。

一方で人的担保とは、正に保証人制度であり、不動産に関わる保証人としては、不動産賃貸借の保証人のほか、ローン債務に対する保証人が挙げられます。

今回は担保のうち、物的担保を取り上げ、特に論点の多い抵当権を中心に眺めてみることにします。

抵当権とは

宅建試験などの不動産関連資格の受験勉強で必ずでてくる抵当権。

ここでは法律論の細かい点はこれらの受験参考書に譲るとして、受験参考書ではあまり触れられないローン実務における抵当権の扱いを中心に解説していきます。

不動産ファイナンスとは、すなわち不動産担保ローンのことであり、この担保は通常、抵当権のことを指しています

抵当権は、不動産ファインナンスに携わる銀行などの金融実務家にとっても、ローンを受けて不動産を購入する投資家にとっても重要な担保物権です。

しかし、抵当権に関連する論点はかなり広くて深く、パターンが複雑なためここでは深入りせずザクっとした説明をするということでご了承ください。

抵当権と質権

抵当権が、後に説明する質権と決定的に異なるのは、「所有者が担保に提供するモノを占有するか否か」という点です。

例えば、質屋にネックレスを預け入れて、お金を借りるというのは、正に質権を設定する行為であり、ネックレスの占有権を質屋、つまり債権者に移転することになります。

一方、抵当権の場合は、所有者が自ら利用してもいいし、他人に利用させる、つまり賃貸してもいいことになります。
(賃貸でも賃借人が所有者に代理して占有しているという意味でも占有していることになります。)

このように抵当権は利用権と担保権を上手く分離させた権利だといえるため、不動産ファイナンスの担保では殆どの場合、抵当権が利用されます。

別除権

抵当権が強力な権利であることの一つに一般債権から分離されて優先的に回収が図れるという効力を持っていることが挙げられます。

例えば、債務者(抵当権設定者※)が破産した場合においては、破産管財人による資産の処分が行われ、債権者に平等に配当されることになりますが、抵当権だけは特別扱いを受け、他の債権者から優先的に回収できるという効力を持っています。

※抵当権の目的とする不動産の所有者は債務者以外でも構いません。この場合、債務者以外の不動産の所有者が担保提供する場合における、抵当権設定者を物上保証人と呼んでいます。例えば、親族や関連会社などがローン実務では多いですね。ここでは、債務者=抵当権設定者となるシンプルなパターンで解説します。

これを別除権(べつじょけん)言います。

抵当権者とその他一般債権者の大きな違いはこの別除権を有しているか否かによるのです。

任意売却と競売

上述の通り、抵当権は債務がローン契約通り順調に支払われている場合は、債務者(抵当権設定者)が自分で利用してもOK、他人に賃貸してもOKと不動産所有者にとっても便利ですし、債権者にとっても不動産を管理する手間が省かれ非常に使い勝手のいい債権保全手段となります。

しかし、債務者がローンの支払いの延滞を繰り返し、期限の利益を失うと債権者は抵当権が設定された不動産を売却して、債権回収を図ることになります。

具体的な債権回収の方法としては、任意売却と競売(けいばい)の2種類があります。

任意売却

略して「にんばい」と言われています。

この任意売却は、債務者(抵当権設定者)が売却に同意し、自ら又は仲介会社に委託して一般市場にて不動産を売却し、売却代金から債権回収を図ることになります。

任意売却による価格が残債権を上回る場合は、債権者、債務者とも満足が得られますが、問題は、任意売却の価格が残債権を下回る場合において抵当権者(つまり銀行)の同意が得られるかどうかが任意売却のポイントとなります。

何故なら、抵当権者の同意が得られない場合、抵当権の抹消を行えないため、そのような抵当権付きの不動産を買う人は殆どいないからです。

※抵当権付きの不動産を購入した買主は、抵当権の負担を享受しなければなりません。

競売(けいばい)

上記の任意売却の交渉は、債権者、債務者、買主の三方が満足いくことが前提となるため、交渉が長期化し複雑化しがちです。

通常は、債権者は任意売却を行うように債務者を誘導しますが、債務者が任意売却に同意しない場合や、任意売却では買手が見つからないと判断した場合は、民事執行法に定める手続きに基づき裁判所に競売の申立てを行い、裁判所の監督のもと競売が行われることになります。

任意売却の場合は、一般の不動産マーケットでの売却となりますが、競売の場合は、競売マーケットという特殊なマーケットにおける売却となります。

最近は、アマの投資家も競売マーケットに参入しておりますが、基本的に競売マーケットはプロ中心となり、一般的に市場価値の7割前後でマーケットが形成されていると言われます。

なお、上記の任意売却でも競売においても、不動産の売却価格が残債務より低い場合は、未返済債務が残ることになります。

この未返済部分は、一般債権(つまり無担保債権)として残債として残ることに注意が必要です。

つまり所有者は不動産を手放しても、ローン残債が残る可能性が十分あるということです。

※上記の説明は、銀行と言う債権者が申立てを行う「担保不動産の競売」の説明でしたが、国や債権者が債務名義を受けたうえで強制的な手続きとして「強制競売」という制度もあります。よく似た手続きですが、厳密には異なる手続きです。

担保余力

抵当権には、順位と言う概念があります。不動産登記簿の乙区を見ると、抵当権が上から順番に設定され、第一順位⇒第二順位⇒第三順位と順番に抵当権が設定されていきます。

※抵当権の順位に絡む論点としては、抵当権の譲渡・放棄、順位の譲渡・放棄、順位の変更などがあります。非常に雑なので深く立ち入りません。司法書士の試験では重要論点ですが、あまり実務では出てきません。

競売による不動産の換価手続きの場合、第一順位から順番に換価代金の配当が行われることになります。第一順位が満額(※)回収してから、後順位が順番に回収していきます。

※実際に優先弁済を受けるのは、利息、賃料などの定期金に関しては満期となった最後の2年分が限度。元本はこのような制約がない。

このようにして考えると、不動産価値が1000で、第一順位の抵当権が500、第二順位の抵当権が300設定されているとすると、残る200は第三順位の抵当権を付けるメリットが理論上はあることになります。

この200の部分を担保余力と言います。

不動産担保ローンの利用後において、追加ローンを受けたい場合において、この担保余力の有無は、債権者にとっても債務者にとっても重要な要素となるのは言うまでもないでしょう。

根抵当権

不動産担保ローンでは、通常、抵当権が用いられますが、特殊な抵当権として根抵当権があります。

根抵当権は、通常、商品販売事業などから発生する反復性のある債権を担保する場合におけるいわゆる事業ローンに使われることが殆どなので、不動産担保ローンで使われるケースは非常に稀です。

根抵当権は、極度額を設定して、その極度額までは目いっぱい債権を回収できるという特殊な抵当権です。

先ほどの抵当権の順位との話からすると、第一順位に高額の極度額の枠が設定されている根抵当権があると第二順位以下の担保余力は担保価値からこの極度額を差し引いたものになるため、後順位の担保権者のローン提供を逡巡させてしまうということがよく起こり得ます。

不動産担保ローンの実務ではあまり出てこないので、根抵当権が設定されている不動産が出てきたら要注意ぐらいの感覚でOKです。
(一方、バンカーは抵当権と根抵当権の違いを熟知しておく必要があります。)

共同担保

不動産を複数持つオーナーが例えば無担保のA不動産を所有しているとしましょう。

この不動産の価値が5,000万円としましょう。

このオーナーが更に1億円のB不動産を買いたい場合に、A不動産とB不動産をどちらにも抵当権を設定すれば、銀行から見た不動産の担保価値は1億5,000万円になりますね。

銀行の融資方針として、担保価値の70%を融資するという方針があった場合においては、1億5,000万円×70%=1億500万円までが融資の上限となるはずです。

買いたい価格が1億円ですから、500万円余分に融資してくれることになりますね。
この不動産価格を超えるローンを俗にオーバーローンと呼びます

この場合において、銀行はA不動産及びB不動産に抵当権を付けるため、これを共同担保と言います。
略して「きょうたん」とも言われますね。

共同担保がなされた場合は各不動産の不動産登記謄本(登記事項)に共同担保目録が債権ごとに作成されることになります。

ということから抵当権設定のない不動産を多く所有するということは、手元資金がなくともどんどんと金融機関からローンを引ける可能性を秘めることになります。

質権

前述の通り、抵当権と質権の違いは、債権者に占有を移転するか否かの大きな違いがあると説明いたしました。

民法上、不動産質権という方式もありますが、不動産質権は債権者が自ら不動産を管理する必要があることから殆ど利用されません

不動産ファイナンスの分野で質権が利用される局面は次の通りです。

火災保険

建物を所有すると火災や事故などの災害を補償するため通常、火災保険や損害保険に加入します。

所有者が火災保険に入るか否かは任意なのですが、ローンの債権者が抵当権を設定するのと当時に火災保険に入ることもローンの条件とされることが一般的です。

通常、事故が発生した場合における火災保険金の支払は、契約者、つまり不動産所有者に支払われることになります。

宅建などの民法で抵当権を学んだ方は、抵当権の「物上代位性」と言う言葉を学んだ方も多いと思います。

建物に抵当権を設定した債権者から見れば、火災保険の保険金支払請求権は建物の価値代替物となり、物上代位性により抵当権の効力が及ぶことになります。

そこで、金融機関は、この保険金支払請求権を保全するため、火災保険証書に質権を設定して、保険証書を預かることになります。

住宅ローンでも火災保険証書に質権が設定されますよね。

このように、不動産担保ローンの実務では火災保険証書に質権を設定することが慣行となっています。

信託受益権

不動産証券化スキームにおいては、現物の不動産を信託受益権化して、その信託受益権を投資ビークルが保有するスキームが採用されるケースが多いです。

不動産投資ファンドにおけるGK-TKスキームにおいては、不動産特定共同事業法の規制を回避するために、投資対象の全てを信託受益権としたり、投資法人(J-REIT、私募REIT)についても流通コストの低減を目的とした信託受益権での取得が殆どとなります。

信託受益権は、受託者から発行される受益権証書に権利が化体されますので、その受益権証書に金融機関が質権を設定することになります。

実務上は、信託受益権に質権設定のみを行い、不動産に対する抵当権は、信託の終了を停止条件として設定する内容を当事者間で合意をしておくケースが多いです。
(抵当権の設定の実務コストや登録免許税コストを軽減するため。)

譲渡担保

上述の抵当権は、債務者に所有権と利用権を留めるという債務者側のメリットと債権者側も担保となる不動産を管理する必要がないという点で、不動産ファイナンスの局面で最も利用が多い債権の保全方法となっています。

ただ債権者から見れば、債権回収の最終手段は「競売」となり、この競売は民事執行法に基づく各種手続きを踏まなければならない点で煩雑です。

この煩雑さを無くして、債権回収を強力にしたのが、譲渡担保です。

譲渡担保は民法に規定がないことから非典型担保と言われております。

譲渡担保の定義は次の通りです。

譲渡担保
債務者(又は第三者)に属する資産を債権者に移転(譲渡)して、債務者が債務を約定通り弁済した場合は、資産を債務者に返還するが、約定通り弁済されない場合は、債権者がその資産を売却して債権回収を図るという担保形態。

更に、譲渡担保には、次の2つに分かれることになります。

売渡担保

債務者が自分の不動産を債権者に売却し、その代金支払の形で融資がなされ、所有権を完全に貸主に移転させる。更に、債務者は債権者からこの不動産を賃借し、一定の期間内に、一定の売買代金で買い戻せるという特約(買戻し特約、再売買の予約)を付す方法。
所謂、セル&リースバック取引のこと。

狭義の譲渡担保

債務者と債権者間にて金銭消費貸借契約を結び、その債務の担保のために、債務者がその所有物を債権者に譲渡し、債務者がそれを無償で使用し、一定の期間内に借金を返せば、所有権が戻るとする方法。所謂、ファイナンスリース取引のこと。

譲渡担保は、不動産ファイナンスの現場実務ではあまり出てきませんが、流動化型の不動産証券化実務では、真正売買の議論においてよく出てくる言葉なので、そもそも何かぐらいは知っておいたほうがいいでしょう。(マイカルの証券化議論が有名ですね)

つまり、譲渡担保とは、不動産売買(形式)なのか?債権担保取引(実質)なのか?ということが議論になります。

かなり複雑な議論ですが非常に面白い議論なので、証券化ファイナンスにて別途、詳細説明いたします。

仮登記担保

仮登記とは、その名の通り仮の登記であり以下のような特性を持っています。

仮登記の特性
仮登記では効力生じないが、本登記によって効力が発生する。
仮登記には順位を保全する効力がある。
債務の完済によって仮登記を抹消する。
債務不履行の際には本登記を行い、債権回収を図る。

債権者Aが第一順位に仮登記を設定した後に、債務者が他の債権者Bからおカネを借り第二順位に債権者Bの抵当権の本登記が設定された場合を考えてみましょう。

第一順位に仮登記を付した債権者Aは、この仮登記を本登記に移すことにより、第一順位の抵当権者として第二順位である債権者Bに優先して債権回収ができるということになります。

抵当権設定の登録免許税は、債権額×0.4%であるのに対して、抵当権設定仮登記の登録免許税は、不動産の個数×1000円のため、債権額が大きい場合にはメリットがあると言えます。

仮登記担保とは

以上が抵当権の仮登記ですが、更に進んで、仮登記担保という債権担保方式もあります。

仮登記担保契約に関する法律にて規定された債権保全方法です。

不動産ファイナンスの実務では殆どみられることは有りませんが、たまに銀行実務で出てくるので、概要を知っておく程度で十分です。

仮登記担保の概要
登記原因を「代物弁済予約」、登記の目的を「所有権移転請求権仮登記」とする仮登記しておく。
金銭債務が債務不履行となった場合は、仮登記を本登記にする。
本登記により、代物弁済により所有権が債権者に移転する。
債権者は、モノの売却により債権を回収する。

趣旨としては、停止条件付の代物弁済なので強力な債権回収方法ですが、純然たる不動産ファイナンスであまり見かけない担保形態です。

以上のように、不動産担保ローンに関連する物的担保には様々な形態があります。

正攻法で抵当権について詳しく理解しておき、その他担保についてはサラッと知っておくというスタンスで十分だと思います。

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