不動産取引の実務慣行には地域性がありますね。
よく〇〇方式など言われるやつです。
今回は、顕著なものとして関東と関西の不動産取引慣行の違いを整理してみましょう。
私自身は、関東と関西でしか実務経験がないので、他の地域でもこんな慣行があるよ!と言う場合は是非教えてくださいませ。
また、最近は関西方式の慣行が崩れてきているという声もよく聞きます。
特に、REITやファンドなどのプロマーケットでは関東方式が主流になっている感があります。
それでは一つ一つ見ていきましょう。
①建物賃貸借の一時金
関西→敷引き方式あり(地域による)
建物賃貸借に当たって、テナントがオーナーに差し入れる一時金としては、賃貸借の開始当初における敷金、保証金、礼金などの他に、賃貸借契約の更新に支払われる更新料など様々です。
敷金については、民法改正によって、民法の本文に条文化されていますね。
敷金やその他の一時金の定義については、こちらの記事をご参照ください。
よく住居系の賃貸借では、敷金〇か月、礼金〇か月と言う表示をよく見ますね。
最近は敷金、礼金を支払う必要のない「ゼロゼロ契約」なども登場していますね。
関東では、一般的に敷金と礼金が分離されて表示されるのが一般的ですが、関西では、敷引きと言われる方式が比較的多く見られます。
敷引きとは?
契約当時に預けた敷金を賃貸借契約の終了時において、一部を差し引くという特約付きの契約を言う。
例えば、賃貸借の当時にテナントからオーナーへ敷金3か月預け入れますが、テナント退去時には、自動的に1か月分を償却し、残り2か月分を預け入れ敷金と見做す契約となります。
敷金の償却と言う表現を使うこともあります。
また、賃貸借の期間において段階的に差し引く(償却する)という特約も見られます。
敷引き契約については、最高裁の判例で特約自体は有効であるが、あまりにも敷引き部分が高額過ぎる場合においては、消費者契約法で無効とするものがあります。
(判例では、賃料の3倍程度であれば有効としたもの)
敷金については、特約がない限り、経年劣化・通常損耗についてはオーナー負担、それ以外の損耗についてはテナント負担ということが民法及び判例の一貫した態度であることから、過度な敷引きには要注意となります。
関西地方では、このような敷引き特約が付いた賃貸借契約が多い傾向があります。
②固定資産税・都市計画税の精算基準日
関西→4月1日
不動産所有者に対して課税される固定資産税・都市計画税(以下、固都税といいます)。
この固都税は、毎年1月1日に不動産を所有している人に課税されることになります。
すると、年の途中で売却する場合において、本来なら買主は、当該年の固都税を負担する必要はなく、購入した翌年から固都税を負担することになるというのが大原則です。
つまり、不動産所有者は、1月1日に課税される固都税を売買があろうがなかろうが、1年分前払いすることになります。
(実際は4期にわけて分割納税するケースが多いですが)
しかし、これでは不公平だろうということで、中古不動産の売買の際は、売主・買主双方で固都税の期間按分が行われるのが不動産売買実務の慣行となっています。
この固都税精算自体は、全国的に行われている慣行です。
ただ、精算の基準日が関東と関西地方によっては、異なることが多いです。
関東地方は、1月1日基準、関西地方は4月1日基準が比較的多いです。
例えば売買契約上の引き渡し日が7月1日という事例で考えてみましょう。
不動産引き渡しにより、不動産の所有権は7月1日に買主に移転します。
すると前日つまり6月30日までは旧所有者、7月1日以降を新所有者が固都税を負担すべきだと考えるのです。
ここまでは関東、関西も考え方は同じです。
関東方式による固都税の精算方法
関東方式では、1月1日~6月30日までの181日分を売主、7月1日~12月31日までの184日を買主として、日割り計算にて按分することになります。(※閏年を考えない場合。)
つまり、売買代金とは別に、この184日分を買主から売主に精算金として支払うことになります。
売主負担
100,000円×181/365 = 49,589円
買主負担
100,000円×184/365 = 50,411円
この買主負担の50,411円を買主から売主に支払うことになります。
関西方式による固都税精算方法
関西方式が4月1日を基準にしている理由としては、固都税の納税通知書の発送日が4月1日であるからとも言われていますが、実際には5月に入ってから郵送されているみたいなので、やはり慣行ということなのでしょう。
関西方式では、4月1日基準となるため、4月1日~6月30日までの91日分を売主、7月1日~翌年3月31日までの274日分を買主として、日割り計算にて按分することになります。
売主負担
100,000円×91/365 = 24,932円
買主負担
100,000円×274/365 = 75,068円
更に関西方式でややこしいのが、売買による引き渡しが1月1日~3月31日に行われるケースです。
この場合は、前年における固都税を4月1日基準で分けるという計算が行われます。
例えば、3月1日に売買引き渡しが行われた例を考えると、次のような計算式になります。
売主負担
ゼロ
買主負担
前年度分 100,000円×31/365 = 8,493円
今年度分 90,000円 納税通知書の金額を買主が全額負担
本当にややこしいですね笑
なお、この固都税の精算金は、売買代金の精算の一部と見做されるため、不動産売買自体が消費税の課税取引であった場合には、建物価格相当分に対して消費税がかかることにも注意が必要です。
一方で、一般の中古住宅では、個人間の売買が殆どなので、このような消費税まで考慮する必要はありません。
③収益物件の敷金精算方式
関西→敷金持ち回り方式
敷金とは、①でみた通り、賃貸借契約の当初にテナント(賃借人)からオーナー(賃貸人)に差し入れられる預り金ですね。
一棟収益マンションのオーナーは、テナントから預かり敷金を各部屋から預かっています。
一つ一つの預かり敷金は小さくとも戸数が大きい賃貸マンションなどは預かり敷金が多額になるケースも多いですね。
この預かり敷金は、賃貸借契約が終了した時点において、テナントが物件を明け渡した時点において返還義務があります。
(細かく言えば、預かり敷金から未払い賃料やテナント負担の損耗費を控除した額となる。)
これを法律的に言えば、テナントから見た場合「敷金返還請求権」となり、オーナーから見れば、「敷金返還債務」となります。
そこで、賃貸マンションが売買された場合において、この敷金返還債務がどのように取り扱われるかというと、特約がない限り、当然に新所有者に債務が承継されるということになります。
つまり、何の特約もなければ、敷金を返還する義務があるのは、新所有者ということになります。
と言う意味においては、収益物件の売買(オーナーチェンジ)の場合においては、不動産という財産に敷金返還債務という負債がくっついてくるという売買形態ということになります。
ここまで理解した上で、資金決済方法を関東方式、関西方式でそれぞれ見てみたいと思います。
関東方式による資金決済方法
上述の通り、敷金は債務として新所有者に承継されるため、売買代金からこの敷金相当額を控除して、売主買主で資金決済をする方式が関東方式です。
関東方式と言いましたが、殆どの収益物件の資金決済方式はこの方式を採用します。
従って、通常は賃貸条件表(レントロール)に記載された預かり敷金相当額を売買代金から控除するのが収益物件の売買における通常の決済方式だと理解してもらってOKです。
上記の例では、不動産価格が1000万円、預かり敷金が200万円だとすると、買主から売主に実際支払われる金額は800万円となります。
敷金控除方式と言われています。
関西方式による資金決済方法
一方で、敷金持ち回り方式と言われている方式が関西圏における収益物件の資金決済では多く見られます。
同じような図で説明すると次のようになります。
上図の例では、不動産価格が1000万円、預かり敷金が200万円だとすると、敷金債務は精算されることはなく、買主から売主に支払われる金額は不動産価格そのままの1000万円となります。
この決済方式をとったとしても、やはり敷金返還債務は、新所有者に承継されるという点に注意が必要です。
上記の図では、関東方式、関西方式ともに「敷金は、新所有者に債務として引き継ぐ」という部分は同じとなっています!
実際にこのような持ち回り方式による決済は、ファンド、REITなどのプロ市場では見られないようになりました。
ただ、地場の不動産業者との取引の場合は、この敷金の取扱いについてお互い勘違いしていて最終的に売買交渉が不調に終わったという例もかなりあります。
このような2通りの決済方式があるのを一応知っておいた方がいいと思います。
以上、関東と関西という分かりやすい2軸にて不動産慣行を対比してみてきました。
不動産取引の世界においても、契約自由の原則があり、かつ、商慣習がありますから、このような特別な方式が地域によって認められているのです。
以上のように見てみると、関西方式は、既存の不動産オーナーに有利な慣行が多いですね。