書籍タイトル 商業施設賃料の理論と実務
書評
賃料評価の権威である神戸大学教授の大野喜久之助先生の編著による商業施設の賃料評価の実務書
不動産の鑑定評価において最も難易度が高いとされる「継続賃料」の評価。
住宅やオフィスなどの契約形態に汎用性が高いアセットにおいても継続賃料の評価はかなり論点が豊富であります。
これに加えて商業施設やホテルなどのいわゆるオペレーショナルアセットの賃料評価は、各施設の物件的個別性、契約の個別性がかなり強まることになり、簡単ではありません。
オペレーショナルアセット特有の賃料決定要因としては次の通りです。
・業種によって粗利率、賃料負担力が異なる
・賃料支払い形態が、固定型、変動型、これらをミックスした固定+歩合賃料など多様である
・借家方式だけでなく事業用定期借地権の方式も見られる
・建設協力金方式など特殊な賃貸借形態が見られる
更に、商業施設の価格の評価、賃料の評価で困るのは、取引事例、賃貸事例の収集であり、住宅やオフィスのようないわゆる相場というものが中々見出しづらいという難点もあります。
業界の精通者でも、ショッピングセンターや店舗の賃料評価に言及する際「坪いくら」などの勘に頼って評価しがちです。
ただ、全く相場がないかというと、これまで賃料評価で積み重ねられた経験値というものもあります。
本書は、この経験知を法務の観点、各種業界団体の調査資料を基に積み上げられたものであり、ざっくりとした指針を与えてくれます。
本書は、これらの商業施設の賃貸借に特有の論点について、業界屈指の不動産鑑定士と弁護士が各章の執筆を担当したものであり、商業施設賃料の理論本としては権威性の高い本です。
本書の前半は、ロードサイド、ショッピングセンター、複合商業施設の賃料の決定メカニズムを理論と具体的な数値をもって解説されており、デベロッパーの商業施設開発担当者にも有用な本です。
後半は、不動産鑑定評価の手法を丁寧に説明していることから、オペレーショナルアセットの鑑定を未経験の不動産鑑定士の若手にとっては有用だと考えます。
また、本書は商業施設以外のオペレーショナルアセット(例:ホテル、ゴルフ場等)の評価の際における考え方の基礎を与えてくれることになります。
基本的な考え方は全て同じです。
全てを理解するには、借地借家法や不動産鑑定基準の基礎知識が必要ですが、読み応えは十分にある本です。
第1編 賃料決定のメカニズム
・土地の賃料と価格の相関関係:土地の賃料形成における特異性と評価上の留意点
・商業施設賃料の決定メカニズム:収益力を規定する立地と集積効果の視点
第2編 店舗経営の実態と経営分析
・ロードサイド商業の店舗経営実態
・ショッピングセンター(SC)の賃料と共益費
・複合商業施設の経営分析
・事業用定期借地権の設定契約実態
第3編 商業施設の特質と判例
・店舗賃貸借・店舗賃料の特質と法的問題
・商業施設の賃料に関する裁判例
第4編 商業施設の賃料評価
・百貨店・ショッピングセンターの家賃形成メカニズム
・商業施設の(最低保証付)歩合方式における継続賃料評価
・店舗賃料の事業収益に基づく算定方法:収益配分法の検討
・事業用定期借地の新規賃料利回り
・不動産のDFC評価法(収益還元法)
・継続賃料評価の算定手法の課題
第5編 定期借地権・定期借家制度の展望
・定期借地権制度の展望
・定期借家制度の展望
こんな人におススメ
・デベロッパーの商業施設部門の担当者
・商業AM会社の担当者
書籍データ
出版社 中央経済社
編著 大野 喜久之輔、加藤 司