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【入門】収益還元法 その2 バブル崩壊と収益還元法

日本にて収益価格の考え方が本格的に導入されたのは、バブル崩壊後においてアメリカ資本のハゲタカがこの考え方を持ち込んで以降です。

その後、相応の時間をかけて収益価格は庶民にも浸透していくことになります。

自宅を賃貸に出すといくらぐらいの家賃になるか?投資利回りは?などを検討要素の一つに入れるのも収益価格的発想であります。

今や、不動産の価値判断で最重視される不動産の収益性。

それを代表する評価手法が収益還元法ですが、日本における収益還元法の歴史は意外に浅いです。

収益還元法が浸透していく以前の日本の不動産に関する価値判断の歴史を次の3つの時期に分けて整理してみましょう。

バブル崩壊前 1990年前
一言で言えば:キャピタルゲイン中心のマーケット
原価法、取引事例比較法が主流の評価
バブル崩壊後 1990年~2000年初頭
一言で言えば:インカムゲインの考え方の導入
収益還元法が持ち込まれ、次第に定着していく
REIT・ファンドの登場 2000年初頭~現在
一言で言えば:IRR重視のマーケットへ
収益還元法が評価の主流となっていく

それでは、各時期における不動産評価に対する考え方と時代背景を見ていきましょう。

日本の不動産評価の歴史

バブル崩壊前 1990年前

日本の高度経済成長時代は、不動産価格は、費用性と市場性だけで決まっていました

デベロッパーが作ったもの(原価)が毎年値上がりして売れていった時代でした。

デベロッパーにとって、土地と建物という原価を投入すれば、値付けを間違えなければ消費者がどんどん買ってくれた時代となります。

企業も不動産を保有すると、不動産価格の上昇の恩恵を受けるようになります。

企業は不動産を買って、銀行に担保に入れることにより資金調達が容易になり、更に、値上がりによる不動産の含み益を利用して資金調達が容易になるという好循環が生まれていた時代です。

バブル崩壊前の社会、経済を振り返ると次のような構造でした。

人口が増加し続ける

日本の人口は世界10位ということを皆さんご存じでしょうか?

人口大国というと中国やインドが思い浮かびますが、日本も人口大国なのです。

日本の人口は、第二次世界大戦後の総人口7,200万人でした。

2004年の1億2700万人まで増加を続けてきました。

特に、戦後間もない1947年~49年の第一次ベビーブームでは年間出生数が250万人を超え、その子供世代の1970年~74年頃の第二次ベビーブーム世代では、年間出生数が200万人前後となる時代でした。

人口が増加するということは、単に居住や職場スペースが必要となり、不動産に対する需要が喚起されることになりました。

当然、価格は自然に上昇するということになりますね。

都市に人口が集中していく。

そして、産業の発展とともに人口の都市部への移動が始まります。

高度経済成長の若者は「金の卵」と言われて、田舎から三大都市圏への人口大移動が起こります。

この大移動により、都市部での住宅、オフィス、商業施設の需要が喚起され、都市部の不動産需要を押し上げるようになりました。

都市開発が盛んに行われる

そして、この需要に応えるために、デベロッパーが盛んに都市部での住宅開発、オフィス建設、商業施設の建設を行うことになります。

都市部での土地が開発され尽くしていったので、デベロッパーは郊外に目を付けてニュータウン開発に明け暮れることになります。

このような環境下では、不動産を保有しているだけで毎年どんどん値上がりしていくことになるため、不動産の収益性は殆ど意識されることはなかった時代だったのです。
 
ここで重視されたのは、「隣でいくら売れた」、「去年の価格はこれだけだったが今年は更に値上がりした」というような市場性のみが重要でした。

そして、デベロッパーも土地と建物を仕入れて開発しさえすれば、開発期間中の値上がり益も享受でき利益を安定的に計上していくことができたマーケットでした。

つまり、キャピタルゲインが最重視されるマーケットだったのです。

このようなマーケットにおいては、
・供給者側は、いくらで作っていくらで売れるか?
・購入者側は、高いか安いか?

ということが意識されるようになり、次のような価格評価が重視されることになります。

供給者側 
仕入れ段階 ⇒ 原価法による積算価格
需要者側 
 購入価格 ⇒ 取引事例比較法による比準価格

 
この時期においては、住宅ローンの金利は8%を超えていても、将来の値上がりで十分返済ができるというマーケットでした。

私自身は当時をリアルタイムで経験をしていませんが、信託銀行の先輩によれば、支店のA会議室で10億円の取引の後、直ぐにB会議室で12億の取引が、そしてC会議室で、、、というような取引が実際にあったらしいです。

当時は、東京の地価合計で、アメリカ全土の土地が買えると言われていました。
「Japan as Number One」といった本が売れた時代だったのです。

正に日本という国が絶頂期にあり、日本が世界を飲み込むぐらいの勢いでした。

というはずでしたが、、、

1990年に入りバブルが弾けます。

バブル崩壊後 1990年~2000年初頭

行き過ぎた株や不動産価格の上昇が一気に弾けたのがバブル崩壊です。

不動産のバブル崩壊の引き金となったのは、1990年3月に大蔵省銀行局長から出された「不動産融資総量規制」通達と言われてきます。

一気に不動産融資の引き締め政策に転換したことにより、あえなく日本の不動産バブルは崩壊することになりました。

失われた20年のスタートですね。

当時は、バブル時代にイケイケだった不動産会社がバタバタと破綻して、不動産関連融資が焦げ付く「不良債権」が大量に発生しました。

銀行も積極貸出姿勢から一気に貸し剥がしモードになり、不良債権が不良債権を作り出すという悪循環が生じ、日本の不動産価格は暴落することになりました。

バブルのピーク時、1900年の日本の土地時価総額は2,400兆円あったと言われていますが、その後2005年には1,200兆円まで半減したと言われています。

ハゲタカの到来

このような買い手不在の不動産マーケットに果敢に攻め入ってきたのが米系の投資銀行でした。

ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー、メリルリンチなど今や日本でもお馴染みにプレイヤーたちですね。

彼らは不良債権を安く買い叩いて、最終的に担保不動産の売却で利益を出すという投資スタイルであり、この行動自体は、転売屋と全く変わりなかったのです。

彼らは「ハゲタカ」と言われていました。

しかし、従来の転売屋と評価手法が全く異なっていました。

彼らの債権・不動産の評価手法が収益還元法だったのです。

当時の彼らは、銀行が手放した不良債権をバルクで買い取り、これらをDCF法にて不良債権の評価を行う考え方を持ち込んできました。

不動産をまとめて買うというバルク買いという言葉もこのころから定着しましたね。

不良債権の担保不動産には、更地や土地建物、リゾート物件などが様々あり、権利関係の複雑なものも多々ありました。収益不動産はむしろ稀であったような状況です。

ただ、債権や不動産の評価方法として収益還元法を彼らが日本に持ち込んできたのは革命的とも言えます。

今や、日本における不動産評価は、収益還元法が主流になっていますが、日本の不動産評価の歴史を見れば比較的新しい評価手法なのです。

正に収益還元法、黎明期と言われる時代です。

REIT・ファンドの登場 2000年初頭~現在

アメリカにおいて1960年頃に登場した、REITが日本でも解禁されることになりました。

日本においては、2000年に投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)改正によりJ-REITが解禁され、2001年には三井不動産系の日本ビルファンド投資法人、三菱地所系のジャパンリアルエステイト投資法人が上場を果たすことになりました。

J-REITや不動産私募ファンドによる投資スタイルが定着していくのに歩調を合わせて、不動産評価の評価スタイルも変化を遂げていきます。

不動産鑑定業界もこれらの集団投資スキームの浸透に歩調を合わせて「証券化不動産の鑑定評価」として各種の勉強会が開催され、ガイドラインが公表されました。

現在の不動産鑑定評価基準には、「証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価」が不動産鑑定評価基準に盛り込まれるまでに至っています。

不動産鑑定評価基準では、「証券化対象不動産の鑑定評価における収益価格を求めるに当たっては、DCF法を適用しなければならない。」とされ、収益還元法のうち、DCF法が評価の主流になっているというのが今日の状況です。

実際に、J-REITの開示する不動産鑑定評価の概要を見ると、価格決定の殆どがDCF法による収益価格となっています。

この収益還元法重視の考え方は、不動産鑑定評価の世界だけでなく、実際の不動産会社の投資実務においても最も重要な評価手法となっています。

更に、私募ファンドや不動産会社の転売案件では、不動産を仕入れて売却するということによる収益の最大化を図ることになります。

この場合、個々の不動産の評価に加えて、個々の不動産を投資してから売却するまでに至る投資期間の総合的な収益率であるIRRが最重要指標になります。

以上は、賃貸マンション、賃貸オフィス等の収益不動産に関連する動きですが、その他の不動産の評価の考え方においても収益還元法の地位が向上しています。

例えば、自宅購入の際でも、貸したらいくらの収益が上がるか?と一般消費者までがチェック指標として考えるようになりましたね。

このように、現在の不動産マーケットにおいては、収益還元法を主流としつつ、購入主体によって、不動産価値判断が細分化されているというマーケットになっていると言えます。

例えば、収益不動産と自己使用不動産を分けて考えると次のような評価手法が重視されています。

収益不動産の価格

 例:賃貸マンション、賃貸ビル、商業施設、ホテル

 供給者側の価格目線は原価的考え方ですが、需要者側は、収益還元法による価格算定(値付け)を行うので、供給者側であるデベロッパーも収益価格を意識せざるを得ません。

このように収益不動産の価格形成は次のような形で行われます。

供給者側 
仕入れ段階 ⇒ 原価法による積算価格
需要者側 
 購入価格 ⇒ 収益還元法による収益価格

自己使用不動産の価格

例:自宅、企業の自己使用物件

一方で、自己使用物件の場合は、収益性よりそのモノを利用することによる快適性が重視されることもあり、買い手は、必ずしも収益性だけで価値判断をするわけではありません。

ただ、現在のマーケットが収益価格主流になっていることから、貸せばいくらか?売ればいくらか?ということもチェックを行うことになります。

例えば、分譲マンションだと坪いくら?というのは取引事例比較法的発想であり、賃料いくら?利回りいくら?というのは収益還元法的発想ということになります。

給者側 
仕入れ段階 ⇒ 原価法による積算価格
需要者側 
  購入価格 ⇒ 主たる評価:評価取引事例比較法による比準価格
       ⇒ 従たる評価:収益還元法による収益価格

以上が大きな不動産評価におけるザクっとした歴史と現状でした。

次回以降で、収益還元法の評価手法について説明してききます。

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