令和6年3月27日に国土交通省より公表された地価公示。
全国平均としては、住宅地の対前年地価変動率は+2.0%、商業地の対前年地価変動率は+3.1%と2008年に発生したリーマンショック後の地価の低迷を完全に抜け出し、リーマンショック後においては最高のプラス変動となりました。
リーマンショック後の地価動向を観察すると、2011年ごろから始まった異次元の金融緩和による全般的な地価上昇のトレンドが現在も続いている状況が窺われます。2021年のコロナショックは完全に一時的な調整となり、もはや過去の出来事となりました。
全体的には上昇基調の地価動向ですが、これはあくまで全国平均の状況なので、地域別に見ると違った様相となります。
ここでは、都道府県別の地価動向を見ていくことにしましょう。
住宅地 都道府県別状況
ここでは、以下の3つのカテゴリーに分けて都道府県別地価変動率を順位づけしてみました。
住宅地の地価上昇が著しい都道府県
住宅地の地価上昇率のトップとなったのは、+5.5%の沖縄県でした。沖縄はインバウンド需要の回復による影響もありますが、なんといっても人口増加が著しい県であり、人口増加との住宅地の親和性が極めて強いことを改めて感じさせる結果となりました。
2位となった福岡は博多・天神エリアの再開発効果の影響も大きく、経済全般が順調に推移していることも後押ししているものと考えられます。
住宅地の地価変動率の上位に位置する都道府県は、周辺エリアの人口を吸収するといったいわゆる「ストロー現象」の効果も大きいと思います。
地価変動率は全国を下回るがプラス変動となった都道府県
大阪、京都、兵庫などの関西の主要府県が比較的上位にランキングされており一定程度の納得性はあるのですが、その他のプラス変動となったエリアにおける今後の地価上昇の持続性には疑念を持たざるを得ないです。足元の地価動向には、バブル成分が含まれていることを考えれば、少し割り引いて考えたほうがいいかもしれません。
マイナス変動となった県
全般的な地価上昇傾向の恩恵を受けることができなかった県と言えます。このカテゴリーに分類されている県は、過疎地域を多く抱え、少子高齢化が進んだ県が殆どです。体感的には地価変動率がマイナスというより、値が付かない不動産を多く抱えており実際の価格変動率はもっと大きいのでは?という疑念を抱かざるを得ません。
商業地 都道府県別状況
住宅地と同様、以下の3つのカテゴリーに分けて都道府県別地価変動率を順位づけしてみました。
商業地の地価上昇が著しい都道府県
商業地の地価上昇が鮮明な都道府県は、都市再開発、インバウンド需要などをキーワードとして力強い地価上昇傾向を呈しています。
東京都を押しのけて1位となったのは、+6.7%の福岡県となりました。福岡県は、やはり天神ビッグバンに代表されるような博多・天神エリアの再開発の影響が非常に大きいと思います。また、観光立地として韓国人など外国人観光客の人気の都市としてインバウンド需要にも沸いているものと考えられます。
工場誘致による特需に沸く熊本県が住宅地、商業地とも10位以内にランキングしているのが特徴的です。
地価変動率は全国を下回るがプラス変動となった都道府県
商業地のプラス変動エリアの特徴としては、周辺都道府県に力強い商業エリアを擁する県、例えば、兵庫県(大阪に隣接)、佐賀県(福岡に隣接)などの染み出し需要もあるのではと考えます。
マイナス変動となった県
住宅地と同様に、全般的な地価上昇傾向の恩恵を受けることができなかった県と言えます。ほぼ住宅地のマイナス変動県と同様であり、人口減少に伴い中心市街地の空洞化が進み、地価の下落に歯止めが利かない状況が窺われます。
地方別 地価動向マップ 住宅地編
以上の住宅地と商業地の地価変動率をマップに地方別にマップで可視化してみました。
北海道・東北エリア住宅地
北海道の住宅地の地価動向としては、巨大都市札幌を擁するためか地価上昇率が際立っています。
北海道は全体としては、+4.4%の上昇ですが、札幌市は+8.4%の上昇となる一方で、函館市は▲0.2%、小樽市は▲0.2%と道内でも二極化の傾向が顕著となっています。
また、特徴的な地域として十勝平野の帯広市の+11.7%が際立った地価上昇を呈しています。これは、道東エリアからの転入増によるものと考えられます。
なお、昨年令和5年の地価公示で、エスコンフィールドの開業効果により住宅地・商業地とも全国トップを独占した北広島市については、昨年令和5年に+30.0%となった北広島市共栄町一丁目10番3は令和6年には+12.0%となり落ち着きを見せています。
東北エリアの住宅地の地価動向としては、巨大都市である仙台を擁する宮城県の一人勝ち状況が一目瞭然です。
仙台市だけ見ても、+7.0%と宮城県内でも仙台がヒトモノカネを引き付ける都市として経済を牽引している状況が窺われます。
関東エリア住宅地
関東エリアの住宅地の地価動向としては、やはり一都三県とその他の周辺県の格差が広がっている感が見て取れます。
東京都の中でも東京23区の住宅地の地価変動率が+5.4%と東京都内でもより都心の地価が上昇している感があります。
特に都心3区である千代田、中央、港においては、千代田区+6.7%、中央区+7.5%、港区+7.2%と地価上昇の程度が際立っており、都心への人口回帰が進んでいる状況が反映された結果となりました。
一方で、山梨県、群馬県、茨木県については、全国平均の地価変動率である+2.0%より低い変動率又はマイナス変動になるなど、関東圏においても中心とその周辺エリアの格差が広がっている感があります。
中部エリア住宅地
中部エリアの地価変動率は概ね穏やかな状況でありますが、やはり名古屋市を擁する愛知県の地価上昇率が目立ちます。
愛知県全体では+2.8%の地価上昇ですが、名古屋市に限ってみれば+4.5%とより中心市街地の地価上昇が顕著となっています。
近畿エリア住宅地
近畿エリアの住宅地の地価変動率は、大阪府+1.6%、兵庫県+1.4%、京都府+1.6%と2府1県が地価上昇を牽引している状況となっています。
しかしながら、東京圏、名古屋圏や福岡などの住宅地の地価上昇が顕著なエリアと比較すれば、住宅地の地価上昇は比較的穏やかな状況と言えます。
例えば、2府1県の中心市である大阪市、京都市、神戸市の住宅地の地価変動率を見ても、大阪市+3.7%、京都市+2.5%、神戸市+2.1%と上昇率は思いのほか低い感があります。
中国エリア住宅地
中国エリアの地価動向としては、広島市を擁する広島県でも+1.0%と全国平均より低い地価変動率となっています。
広島市でも+1.7%と全国平均を下回る状況であり、これまで中国エリアの核となる都市とされてきた広島市ですら地価上昇を牽引できない現実が浮き彫りになっています。
四国エリア住宅地
四国エリアはすべての県がマイナスの地価変動となり、全体的な厳しさが顕著となっています。
四国エリアの最大都市である高松市でも+0.3%の上昇となっており、全国平均を大幅に下回る地価変動を呈しています。
九州・沖縄エリア住宅地
九州エリアの住宅地の地価変動率の状況は、九州北部エリアと南部エリアでの二極化が進んでいる状況が一目瞭然となっています。
特に、地価上昇の目立つ福岡県は、福岡市が+9.6%となっており、中でも博多区+14.8、中央区+11.3%と住宅エリアにおいても中心部回帰の状況が鮮明となっています。
一方で、福岡県の中でも北九州市の住宅地の地価変動率は+1.2%と福岡県の中でも二極化が進んでいます。
その他九州エリアで地価上昇が目立つのは熊本県であり、これは台湾の半導体大手のTSMCの進出効果による特需効果とみられます。
沖縄県の住宅地の地価変動率は、+5.5%となり都道府県別でみれば最も高い地価変動率となりました。
沖縄県と言えば県庁所在地である那覇市が+4.0%、普天間飛行場を擁する宜野湾市が+6.0%と沖縄本島でも地価上昇が顕著となっています。
沖縄県の中で最も地価上昇を牽引しているのは、宮古島市+12.3%となっています。宮古島市は、商業地でも+12.4%となるなどリゾートホテルの開業効果が顕著に表れた結果となりました。
地方別 地価動向マップ 商業地編
続いて商業地編です。
北海道・東北エリア商業地
北海道の商業地の地価動向としては、住宅地と同様に札幌市が+10.3%と全体を牽引している感があります。
その他商業地の地価上昇が顕著なエリアとしては、帯広市+8.1%、江別市10.6%と上昇が顕著となっています。
東北エリアの商業地の地価動向としては、住宅地と同様に仙台を擁する宮城県の上昇率が+4.6%と突出しており、他の県を圧倒している状況です。
仙台市の商業地の地価変動率としては、+7.8%となっています。その他健闘している都市としては福島県郡山市の+5.1%となっています。
関東エリア商業地
関東エリアの商業地の地価変動率を見ると住宅地以上に地価変動の格差が顕著となっている状況です。
やはり東京都が+6.3%と全体を牽引している状況であり、東京23区の商業地の地価変動率が+7.0%であり、都心3区で見れば、千代田区+7.8%、中央区+5.8%、港区+6.5%となっており、住宅地より満遍なく東京23区の地価上昇率が目立つ形となっています。特に、台東区は+9.1%となるなど浅草エリアを中心とするインバウンド需要の再興の影響が窺われます。
千葉県の商業地の地価変動率も+5.3%と上昇が顕著ですが、これは都心に近い市川市+14.0%、船橋市+12.0%などが牽引している状況です。
神奈川県の商業地としては、横浜市+6.0%と地価上昇が顕著ですが、茅ケ崎市+8.8%、川崎市+7.1%、厚木市+7.0%と地価上昇エリアが点在しているといった感があります。
中部エリア商業地
中部エリアの商業地の地価変動率も住宅地以上により名古屋市を擁する愛知県がほぼ一人勝ち状況と言えます。
特に、中部エリアにおいては、太平洋側エリアが強く、日本海側がより弱いという傾向が見て取れます。
近畿エリア商業地
近畿エリアの商業地の特徴としては、大阪府+6.0%、京都府+5.1%とやはりインバウンド需要の回復効果が大きいものと考えられます。
大阪府、京都市については住宅地より商業地の上昇率が顕著なのが特徴的です。
中国エリア商業地
中国エリアの一大商業地である広島市を含む広島県が相対的に高い地価変動率を呈しています。広島県については、住宅地については+1.0%とマイルドな地価変動率ですが、商業地については、+2.4%と住宅地に比してやや高めの地価変動率となっています。
広島市+4.2%、岡山市+3.6%とこの2つの都市が牽引している状況です。
四国エリア商業地
四国エリアの一大商業地である香川県高松市の商業地の地価変動率は+0.8%と他のエリアの中核都市と比較してやや見劣りする状況です。
その他県庁所在地でみても、徳島県徳島市+0.1%、愛媛県松山市+0.5%、高知県高知市+0.2%とほぼ横ばいとなっています。
九州・沖縄エリア商業地
九州エリアの商業地の地価動向を見ると、住宅地より南北格差が広がっている感があります。
特に、福岡市は+12.6%と他のエリアを圧倒しており、福岡市の中心市街地の再開発効果によりヒトモノカネが福岡市に集中している状況が窺われます。
福岡県の中でも北九州市の商業地の地価変動率は+3.6%となるなど、福岡一人勝ち状況が顕著となっています。面的な上昇というより点的な上昇と言ったほうが正確かもしれません。
沖縄県の商業地の地価変動率は、+5.0%と高めの上昇率となりました。通常、地価上昇期においては、商業地の地価変動率が住宅地の地価変動率を上回る傾向が顕著となりがちですが、沖縄県についてはこれが逆となっているのが面白いです。これは、沖縄県については、人口増加に伴う住宅需要が不動産マーケットを牽引しているという傾向の表れであると考えます。
以上、具体的な数値とマップを両面で見ていくと地域の強いエリアにヒトモノカネがより吸い寄せられているといった状況が見て取れます。
地価変動は人口動態とも親和性が強いデータであります。
人口変動と地価動向を分析したこちらの記事も参考にしてください。