不動産業

不動産関連プレイヤー【アセットマネジメント業(AM業)】

不動産アセットマネジメントとは何か?

不動産所有者に代わって、不動産に関連する経営を行うのがAM業であることを前回の記事で紹介しました。

不動産関連プレイヤー【AMとPMの役割分担】

ここで再度、AM業の定義を掲げてみると以下の通りとなります。

AM業の定義

不動産の経営に関わる意思決定を行う業務

具体的には、不動産賃貸戦略、不動産維持管理戦略、出口戦略などの不動産保有事業全般に関わる意思決定を行う

現物不動産の保有会社では、不動産所有者と不動産経営者は一体しているためAM業務が特段認識されることは無いが、後に説明する証券化スキームでは意義を持ってくる機能

ここでは、不動産投資ファンドの資産運用会社であるAM会社の具体的業務を見てみましょう。

※REITも広義の不動産投資ファンドのため、ここでは不動産投資ファンド一般のビジネスモデルを想定して説明いたします。

不動産AM会社は、不動産投資ヴィークル(私募ファンド、REIT等)から不動産の取得、保有、売却の各フェイズに関わる経営全般を受託します。

投資ヴィークルはただの「所有の箱」であることから、不動産から生じるCFの最大化、つまり投資ヴィークルの企業価値の最大化をミッションとしています。

私募ファンドやREITなどから経営を委託されるAM業は一般的に不動産投資顧問会社が担うことになります。

不動産AM会社の組織構造

AM会社の組織特徴

後述するAM会社への規制により投資運用業を行うAM会社は、金融商品取引法(以下、金商法)による登録要件により組織体制や人員体制が厳格に定められています。

特徴としては、次の通りです。

AM会社の組織特徴
・コンプライアンス委員会や内部監査室が社長の上位組織に掲げられており、社長と言えどもコンプライアンスや監査の対象となる。
・特に、コンプラアンス担当者、内部管理担当者は営業組織からの独立性が厳格に要求される
・取得、運用の各段階に応じて組織が機能分化され、ファンド・リートの運用部が物件の期中の運用に特化し、物件の取得活動は投資営業部等の専属組織が担う。
人的体制としても不動産鑑定士や不動産証券化協会認定マスターなどの専門家を配備しなければならない

以上のように、AM会社では、厳格な内部統制が図られており、実務上はコンプライアンス委員会や投資委員会などの会議体が多いというのも特徴の一つと言えましょう。

AM会社の具体的業務

AM会社は、いわば不動産所有会社の経営全般を担うことになるので、各フェイズにおいて以下のような業務を遂行することになります。

個々の物件に対して1件ごとにSPCを組成する私募ファンドと、追加取得型の私募ファンドやREITのような投資法人によって業務プロセスが若干異なりますが、基本的な業務の流れとしては各フェイズにおいて以下のように進んでいきます。

なお、REITも広義のファンドであることから、以下特段の言及がない場合は、投資ヴィークルのことを単に「ファンド」として説明します。

会社全般運営

内部管理体制の構築、実行

AM業は金融商品取引法の規制を受けることから、厳格な法令順守が義務付けられることになります。
コンプライアンス委員会や内部監査などの内部統制に関する体制、指針作りとその実行も業務の中ではかなり大きなウェイトを占めます。

投資方針・スキームの策定

物件を取得、運用の前提として受託するファンドやREITの運用方針の策定、投資家への運用状況の説明業務が発生します。

物件取得の前段階において、IRRを最大化するためのスキーム構築を投資家とすり合わせするのもAMの重要な業務の一つです。

例えば、投資ファンドの設立目的や対象とする資産が現物不動産なのか信託受益権なのかによって設立すべき投資ヴィークルの種別も異なってきます。

この段階で、弁護士や税理士などと協議して最適な投資ビークル(SPC)をセットアップするのもAMの大きな役割です。
(投資スキームの詳細については、別途、証券化スキームの項で説明いたします。)

物件取得段階

物件取得活動(ソーシング活動)

不動産マーケットからファンドの投資方針に整合する不動産を取得する業務もAM会社の重要な仕事です。

不動産投資ファンドの購入金額は、一声10億円以上の物件が殆どなので、プロ専門の信託銀行の不動産部、大手仲介部門の法人営業部門を中心として物件情報の収集を行います。

投資基準に合致する案件が選定された段階で、物件の価格算定(バリュエーション)を行い、投資政策委員会などの意思決定機関にて投資判断を行っていくことになります。

物件取得担当者には、取得予定物件の取得の合理性をロジカルに説明する能力が必要とされます

デューデリジェンス(DD)業務

瑕疵のある物件を取得してしまうと投資家から受託者責任を問われかねないため、物件自体に物的、法的な瑕疵がないか徹底的に調査を行います

これらはデューデリジェンス(DD)業務と呼ばれており、取得担当者にも、不動産に関する物的、法的の高度な専門的知識と経験が要求されます

ローンアレンジメント

物件取得に当たって、ローン条件などの資金調達を銀行と協議を行います。

AM会社には、ファンドにとって最も好条件のローンを調達する受託者責任があり、ファンドのレバレッジ後の投資利回りを最大化することがミッションとなることから、金融機関とのローン交渉は重要な任務となります。

担当者には、不動産金融(アセットファインアンス)、つまりノンりコースローンのアレンジメント能力が求められます

その他関係者間調整

上記の業務に加え、不動産投資ファンド関連業界の外部パートナーとの協議、調整を行っていきます。

信託銀行
ファンド投資の場合、流通コスト節減のため、信託受益権スキームでの取得が殆どであり、現物不動産の場合、信託銀行に新規に受託をしてもらう必要あり。
不動産鑑定会社
取得物件の不動産鑑定評価を鑑定会社に依頼し鑑定評価書を取得
建物調査会社
建物状況調査を調査会社に依頼しエンジニアリングレポート(ER)を取得
弁護士
売買契約書、信託契約書等の契約書のレビューを弁護士に依頼
司法書士
決裁時において登記移転手続きを司法書士に依頼

以上のような外部パートナーとの連絡調整業務も物件取得担当者の役割となることから、AM担当者には高度な物的、法的知識が要求されます

期中運用段階

物件の取得後においては、物件の賃料を上昇させたり、経費の節減を通じて保有期間中の物件収支(NOI、NCF)の向上もAM会社の大きなミッションとなっています。

期中のNOI向上の具体的な業務はPM会社が担うことになりますが、AM会社はファンドからPM会社の監督責任を受任することになるため、AM会社とPM会社は正に二人三脚で期中のNOIの向上策を実践していくことになります。

物件売却段階

保有期間中のマーケット変動、建物の築年数経過、投資方針の変更等の様々な理由により、ファンドで保有している物件を組み替えていき、総合的なファンドの利回りを向上させていくというのもAM会社に求められる大きなミッションと言えます。

そこで、物件の組み換えのための売却活動をAM会社の差配によって行うことになります。

売主代理人としての立場であることから、物件購入時の際のようなDD業務は不要ですが、不当に安く売却したと後ほど投資家から損害賠償を提起されないように、ここでも不動産鑑定評価を取得し、不動産鑑定評価額以上の価格にて入札を行うことが一般的です。

保有物件の簿価を上回る売却となった場合、売却益を計上することができますが、投資戦略上、簿価を下回る物件売却も稀に行われます。

ファンドのクロージング

私募ファンドの場合、投資期間が設定される場合が多く見られ、投資ヴィークル自体の清算を行ったり、投資ヴィークルに対する投資持分(エクイティ)を第三者に譲渡したりとファンド自体のクロージング業務もAMの重要な業務となります。

投資期間中のクロージング、期中での投資持分の売却(EXIT)などクロージング方法は様々です。

以上のようにファンドの設立(入口)段階からクロージング(出口)段階までのすべての経営を行うのがAMの業務となります。

AM業に対する規制

不動産投資ファンドは現物の不動産投資以外に金融商品である信託受益権を投資運用の対象とすることが一般的であり、取り扱う商品やファンド形式によって、宅地建物取引業の免許、総合不動産投資顧問業の登録、金融商品取引法に基づく投資助言業、投資運用業の登録等を受ける必要があります。

法規制の側面から見たAM会社の機能としては、大きく投資助言業、投資運用業に分類することができます。

公募REIT、私募REITの運用、私募ファンドの運用などを総合的に受託している大手AM会社は、投資助言業、投資運用業の許認可を両方取得していることが一般的です。

投資助言業は、アドバイスを行う業務であり、投資判断の主体は投資家になりますが、投資運用業は投資判断も一任されることから許認可庁から厳格な審査・監督を受けるということになります。

投資助言・代理業

私募ファンドの投資家に対して投資判断に関する助言・代理を行う業務
 アドバイス業務のため規制は比較的緩やか

私募ファンド
金商法の投資助言業の登録

投資運用業

私募ファンドの投資家又はREITから投資運用に関して一任を受ける業務
投資判断自体をAM会社が行うことから厳格な規制あり

私募ファンド
金商法の投資運用業の登録
REIT(※)
宅地建物取引業法の免許
総合不動産投資顧問業の登録
不動産関連特定投資運用業の登録

※REITには、証券取引所に上場している公募REIT(J-REIT)と非上場の私募REITの二種類があります。
 J-REITは上記に加え証券取引所の上場審査をパスする必要があります。

AM会社の分類

日本においても不動産の証券化の進展により、不動産と金融の融合が進んだことから、不動産会社、金融会社それぞれが不動産投資顧問業(AM業)に参入しています。

また、商社などの事業会社も不動産金融分野に積極参入するほか、外資系や独立系のAM会社も多数存在しています。

また、REIT専門のAM会社か、私募ファンド専門か、または両者のどちらも取り扱っているかによって再分類することができます。

ここでは、不動産系、金融系、事業会社系、外資系の私募ファンドを取り扱っているAM会社の一例を以下挙げてみます。

以上のように、不動産AM業界は、不動産金融業界の中でも中心的役割を果たすことになります。

一般的にAM会社は新卒の採用が少なく、不動産系、金融系、外資系のサラリーマンの転職者が社員の多くを占める業界となっています。

大手の不動産会社では、子会社にAM会社を有するケースが多く、親会社からの出向者とAM会社のプロパー社員が混在しているケースも多いです。

また、最近は人手不足もありPM業界からの転職組も比較的多くなっています。

AM業に関連の深いプロパティマネジメント(PM)業についてはこちらの記事を参考にしてください。

不動産関連プレイヤー【プロパティマネジメント業(PM業)】

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