前回の記事では、不動産開発をスタートとしてその後の売買、保有、更なる売買の循環における不動産業の各プレイヤーのザクっとした役割を概観してみました。
不動産証券化スキームの台頭により、日本の不動産業界でも所有と経営の分離が行われるようになりました。
ここでは基本的な不動産の所有と経営と運営の分離のモデルについて考えてみましょう。
ここで不動産の所有、経営、運営について、それぞれの役割を簡単に整理しておきましょう。
不動産の所有
正に不動産を所有することであり、不動産の所有から生じる利益を享受し、損失を負担する主体となります。
証券化スキームでは、形式的な所有者が信託銀行になり、信託銀行が信託受益権を発行しその受益権の所持者を実施的な不動産の所有者となる形態が多く採用されています。
不動産の経営 アセットマネジメント(AM)
不動産の経営に関わる意思決定を行う業務。具体的には、不動産賃貸戦略、不動産維持管理戦略、出口戦略などの不動産保有事業全般に関わる意思決定を行う業務です。
現物不動産の保有会社では、不動産所有者と不動産経営者は一体しているためAM業務が特段認識されることは無いが、後に説明する証券化スキームでは意義を持ってくる機能となります。
人間で言えば、体が不動産所有で頭が不動産の経営と考えてもらえば分かりやすいと思います。
このAM業務の認識は、後で説明する証券化スキームにて意義を有してきます。
不動産の運営 プロパティマネジメント(PM)
不動産の日常運営に関わる業務です。
具体的には、賃借人管理業務、賃貸借契約締結業務、日常的な修繕メンテナンス業務などの業務を包括的に行う業務がPM業務と言えます。
不動産オーナーは、不動産保有によるキャッシュフロー(NOI)の最大化を目的として、PM会社に管理業務を包括的に委託します。
現物不動産の保有会社でも、管理業務の一部を管理の専門会社に外部委託することが一般的であるが、PM業務が包括的管理業務であることから、個別の清掃業務や設備メンテナンス業務はPM業務とは言えないことに注意が必要です。
所有・経営・運営別の不動産経営形態
それでは、上記の3つの機能がどのように一体化しまた分化しているかについて基本スキームを見ていきましょう。
伝統的な経営モデル
伝統的経営モデルはとてもシンプルであり、所有・経営・運営が混然一体となっている形式です。
図にすると、当たり前やん!と言う感じですね。
伝統的な不動産会社による不動産経営モデルは、不動産所有者と不動産経営、不動産運営が混然一体となっている状態となります。小規模不動産会社や個人オーナーによる所謂「自社管理」に当たるものと言えましょう。
後に説明する不動産経営に携わるアセットマネジメント業(AM業務)、不動産運営に携わるプロパティマネジメント業(PM業務)の機能が不動産保有会社に存在する形態です。
大手不動産会社でもグループ会社にAM業やPM業務を専門的に行う子会社や関連会社を擁しており、実質的には「自社管理」を行っていると言え、この伝統的経営モデルに該当すると言えましょう。
運営外部委託モデル
不動産運営、つまり不動産管理業務だけを外部委託するモデルです。専業不動産会社でない不動産所有者は、経営の意思決定だけを行い、日常の不動産管理業務だけを外部委託するケースがよく見受けられます。
ただし、管理業務のうち例えば清掃業務や設備メンテナンス業務のみを外部委託し、賃借人の募集や入出金管理を不動産所有者自ら行うケースでは、厳密な意味でのプロパティマネジメント業務を外部委託していると言えないケースも多いことに注意が必要です。
経営・運営外部委託モデル
不動産投資信託(J-REIT、私募リート)や不動産投資ファンドスキームが浸透していくにつれ、不動産の所有者は正に所有だけを行う単なる箱(投資ヴィークル)として機能し、不動産経営(AM)や不動産運営(PM)の全てを外部委託する形態が台頭してきました。
J-REITでは、不動産経営機能である資産運用業務(AM)を外部委託しなければならないとされており、通常は、AM業務は、国土交通省の登録を受けた不動産投資顧問業者が受託するケースが一般的です。
このように不動産証券化により不動産と金融が融合した結果、不動産一つをとっても機能分化が進んでおり、餅は餅屋へという流れが加速しているというのが時代の潮流となっています。
不動産業界に携わるプロにとってもより専業化が進んでいる状況になっています。