書籍タイトル 限界都市 あなたの街が蝕まれる (日経プレミアシリーズ)
書評
地方の過疎化が引き起こす「限界集落」という言葉を聞いたことがあるでしょう。
「限界集落」とは、65歳人口の人口が半数を超える都市を指し、地方と都市の格差という文脈で語られる言葉であり、都市部とは無縁の言葉です。
日本の人口は、2010年の1億2800万人をピークに減少しており、日本全体を見れば既に人口減少社会に突入しています。
一方で、東京は現時点でも人口が増加し続けている稀有の都市であり、今後人口増加基調が当面の間続くものと予想されています。
国立社会保障・人口問題研究所による人口推計でみれば今後2045年までには全国的な人口減少の一方で、東京都心で全く逆に人口が増加し続ける予想がなされています。
ご参考:国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口』(平成30(2018)年推計)より加工
このようなデータを見れば、東京都心は安泰に見えます。
人口と不動産需要は当然ながら密接な相関性があり、人口増加の予想はすなわち将来における不動産価格上昇の牽引力になることは間違いないです。
私個人としても、東京都心のタワーマンションの大きな値崩れはないものと予想しております。
では、東京都心のような大都市に死角はないのか?という問題に切り込んだのが本書「限界都市 あなたの街が蝕まれる」です。
本書の第1章で取り上げているのが「都心に集中しすぎる各種の問題点」です。
タワマンの大量供給で急激に人口が増加した武蔵小杉や豊洲をケーススタディとしてオーバーフローする都市問題を提起していきます。
第2章では、都心部における老いていくマンションや団地の大規模修繕問題や管理そのものの問題を取り上げていきます。
ここまでが大都市圏が抱える問題ですが、一転、第3章からは、地方におけるコンパクトシティや立地適正化計画の実態について切り込んでいきます。
地方では、都市機能の集約が進んでいるよりむしろ分散が進んでいるというのが現実という日本の地方ならではの行き詰った問題。
正直、政治的決断が必要な如何ともしがたい問題が地方には横たわっています。
以上のように手軽な新書でありながら、日本の都市開発に関する各種論点を明示している良書と言えます。
本書は、都心部と地方それぞれの都市の持続可能性について考える本です。
今後、日本では全体的に高齢化が進むことになりますが、都市、地方それぞれの問題点は異なるという視点を持つことが重要であり、それぞれの課題が異なるという視点を改めて考えさせられました。
ちなみに、私個人の感想としては、本書の読後においても「いくらdisられたとしても東京都心のマンションは安牌だ」との考えは揺らぎませんでした。
デベロッパーの住宅開発担当者、都市開発担当者には是非読んでもらいたい一冊です。
第1章 タワマン乱立、不都合な未来像
第2章 マンション危機、押し寄せる「老い」の波
第3章 虚構のコンパクトシティー
第4章 脱・限界都市の挑戦
こんな人におススメ
・デベロッパーの都市開発担当者
・都市問題について研究しようとしている学生
・マンション購入検討者
書籍データ
出版社 日経プレミアシリーズ 日本経済新聞出版社
編者 日本経済新聞社