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おススメ書籍 【ポスト2020の都市づくり】

書籍タイトル ポスト2020の都市づくり

書評

まず冒頭で言いたいのは、これからの都市を考える仕事に携わる方には、是非読んでもらいたい一冊であること。

従来型のハコモノ中心の都市開発から脱皮していくためにこれからの街づくりには、ハード中心思考からソフト中心思考へ如何に転換していくかが問われています。

本書のオビ表紙にある通り「ソフトパワーによるイノベーティブなまちづくりへ」ということが本書のキートーンとなっています。

本書は、一般社団法人 国際文化都市整備機構(FIACS)に所属する専門家が執筆したソフトパワーを活用した街づくりの実践記録

一般社団法人 国際文化都市整備機構(FIACS)のオフィシャルWEBサイト
https://www.fiacs.jp/

FIACSとは、Foundation for the International Cities with Arts, Culture, and Soft Infrastructuresの略であり、直訳してしまうと「アート、カルチャー、ソフトインフラを纏った国際都市のための機構」となります。

日本語の機構名を見ると、学者たちが集まる機構のような響きがありますが、全く異なります。

本書は、都市とソフトの融合キュレーターたちがどんな想いで都市にソフトパワーを注入してきたかの実践的記録となっています。

序文「ポスト2020年」が意味するもの 水野誠一 より抜粋

日本には以前から「ハコモノ行政」という言葉がある。これは、公共事業をする時に、ハードウェアづくりのみに腐心して、肝心なソフトウェアやコンテンツの開発がおろそかになる現象を揶揄した言葉だ。
仮にものづくりでいえば、従来の単なる品質/機能重視のハード志向から、すでにブランド力、デザイン性、あるいはライフスタイルの重視といった分かりやすい付加価値性を付与していく段階に入っている。
時代は明らかに「成熟(化)期」に入っていく兆しがあるのだから、更に多様性、地域性、個性、差異性などへの対応をしなければならないはずだ。

そして、キーワードとして次の思考を提示する。

文明から文化へ
進化から深化へ
競争から共創へ
教育から共育へ

このような思考に基づいた都市の想像力向上策について、各章で各界のキュレーターやディレクターによる実例を展開していくという構成となっています。

各章の記録が個性溢れる執筆陣で、読んでいるだけでワクワクして、きっと「自分もやってみたい!参加してみたい!」と思うはずです。

近年、発刊された都市開発関連の書籍で、何度も読み返したくなる本は正直あまりありませんが、本書は例外中の例外の本です。

不動産業に従事する若手、不動産業を目指す就活生、学生には是非読んでもらいたい一冊です。

当然、オジサンたちにも読んでもらいたい一冊です笑

本書の構成
序文「ポスト2020年」が意味するもの―水野誠一1章 創造都市の理念と実際―井口典夫
1 創造都市とクリエイティブ資本論
2 日本の都市づくり
3 協働型まちづくりのアプローチ
4 東京都心での実験
5 今後の展開

2章 都市の創造力を高める「ポップ」&「テック」―中村伊知哉
1 創造的だが、創造的とは思っていない日本
2 創造力を発揮する都市とは
3 外国人が憧れる日本文化のクールさとは
4 コンテンツ産業を伸ばすための戦略
5 都市の成長を左右する情報テクノロジー
6 IoT、AIが日常化する社会の設計
7 デジタル・コンテンツ特区Cip
8 新しい文化・産業を生みだす超人スポーツ

3章 来たるべき計画者のために~アートプロジェクトの現場から―芹沢高志
1 計画者の矛盾
2 別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」─プライベートとパブリックの境界が溶ける場所
3 さいたまトリエンナーレ2016─柔らかな都市計画
4 三つの論点

4章 アートは地域に取り込まれるのか、地域はアートに力をもらえるのか―玉置泰紀

1 アートとローカルはどこで出会ったか
2 アートはローカルの中でいかに闘ったか
3 アートがもたらす地域のメタ化

5章 街のブランディングとソフトインフラ―小林洋志
1 都市のソフトインフラとは何か?
2 「RisingEast」というまちづくりのコンセプト
3 まちづくりパートナーとしての役割
4 エリアをプロモーションする
5 収益源としての三つのビジネス
6 エリアの価値を高めるプラットフォーム
7 まちづくりを自分事化する市民ファンド
8 ヒューマンネットワークによるブランディング

6章 動きだすパブリックスペースと運営組織のデザイン―保井美樹
1 街のガバナンスと事業のマネジメント
2 ニューヨークにおける官民連携とエリア経営組織
3 日本における官民連携の始まり
4 エリアマネジメントへ
5 パブリックスペースを育てる組織づくり
6 エリアマネジメントのチャンス到来

7章 都市開発の変化とソーシャルハブの形成―松岡一久
1 都市開発プロセスの変化
2 都市開発におけるソーシャルハブ
3 ソーシャルハブの形成に必要なこと

こんな人におススメ

・商業デベロッパーの若手担当者
・鉄道、不動産業界、デベロッパー志望の就活生

書籍データ

書籍タイトル ポスト2020の都市づくり
出版社 学芸出版社

執筆陣の紹介

井口典夫

青山学院大学総合文化政策学部教授。1956年生まれ。東京大学卒業後、国土交通省入省。1994年青山学院大学に移籍。専門分野は創造都市論、クリエイティブ経済論。主要な著書に『青山文化研究』(宣伝会議)、訳書にリチャード・フロリダ著『クリエイティブ都市論』『新クリエイティブ資本論』(ダイヤモンド社)。国や自治体の各種委員会の委員長等を歴任するほか、日本文化政策学会・文化経済学会・日本アートマネジメント学会の各理事、NPO渋谷・青山景観整備機構(SALF)理事長、軽井沢ニュース株式会社取締役等を兼務する。

中村伊知哉

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。1961年生まれ。京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学で博士号取得(政策・メディア)。1984年ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策を担当。橋本行革で省庁再編に携わったのを最後に退官し渡米。1998年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長。2006年慶應義塾大学教授を経て現職。

芹沢高志

P3 art and environment統括ディレクター。1951年生まれ。神戸大学理学部数学科、横浜国立大学工学部建築学科を卒業後、リジオナル・プランニング・チームを経て、1989年P3 art and environmentを設立。アサヒ・アート・フェスティバル事務局長、横浜トリエンナーレ2005キュレーター、別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」総合ディレクター、さいたまトリエンナーレ2016ディレクターなどを務める。

玉置泰紀

KADOKAWA/ 2021年室エグゼクティブ・プロデューサー(元ウォーカー総編集長)。1961年生まれ。同志社大学文学部卒業後、産経新聞大阪本社に入社。その後、福武書店(ベネッセ)で月刊女性誌、さらに角川書店で6誌の編集に携わった後、現職。元ウォーカー街づくり総研所長。京都市埋蔵文化財研究所理事。大阪府日本万国博覧会記念公園運営審議会委員。

小林洋志

株式会社博報堂ビジネスインキュベーション局プロデューサー。1957年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。1981年博報堂入社。東京スカイツリーのソフト業務全般のコンサル、東京ミレナリオ、東京ホタルなどの大型地域イベント、スポーツ振興くじtotoなど、都市開発や多くの新規事業の立ち上げに携わる。

保井美樹

法政大学現代福祉学部福祉コミュニティ学科教授。1969年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。ニューヨーク大学大学院都市計画修士課程修了後、東京大学で博士号取得(工学)。東京大学特任助教、NY行政研究所客員研究員、世界銀行等を経て、2012年より現職。専門分野は都市・地域経営、公民連携。全国エリアマネジメントネットワーク副会長、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス理事など。

松岡一久

株式会社エナジーラボ代表取締役。1960年生まれ。神戸大学工学部卒業後、環境事業計画研究所、SCIを経て、1991年に浜野商品研究所(現在の北山創造研究所)に入社、プロジェクトディレクターとして20余りのプロジェクトを担当。2007年エナジーラボを設立。都市開発に伴う、ソフトなインフラストラクチャーの企画・開発を手掛ける。

編者:一般社団法人国際文化都市整備機構(FIACS)

文化志向、ソフト志向の都市開発について共同で研究、推進していくことを目指して2016年に設立された。30を超える会員企業はディベロッパー、設計事務所、建設会社など建設関連団体だけでなく、出版、コンテンツ、音楽、IT事業者まで多岐にわたる。築地や軽井沢などの地域別部会や、異分野企業が参加するプロジェクト部会にてさまざまな事業アイデアが生まれている。また「ソフトインフラ事業領域」に求められるノウハウの体系化や、市場形成、普及・定着に向けた活動にも取り組んでいる。

ポスト2020の都市づくり

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