不動産鑑定

サブリース物件の評価について

かぼちゃの馬車問題、レオパレスの不正建築問題などでクローズアップされている「サブリース」

今日は、不動産評価の観点からこのサブリースについて考えてみたいと思います。

サブリースとは?

サブリースの定義は次のようになります。

不動産オーナーが建物の一棟又は一部分を賃借人(転貸人)に賃貸し、当該賃借人がエンドテナント(転借人)に転貸する事業方式。

要するに丸ごとサブリース事業者が借り上げて、それを又貸しする契約のことです。

また、サブリースはマスターリースとも言われることもありますが、明確な定義がなく業界的にはなんとなく次のように整理されている感じです。

「サブリース」という場合
サブリースとう場合、プロとアマ間における一括借り上げスキームを指すことが多いですね。
つまり、素人である地主や物件オーナーが不動産事業者に一括借り上げしてもらうスキームのことをサブリースということが多いです。

「マスターリース」という場合
大手不動産業者によるプロマーケットでは、あまり「サブリース」という表現でなく「マスターリース」と表現することが多いです。

これは証券化不動産の場合においては、信託スキームの場合においては管理上・形式上の一棟賃貸がなされることが殆どであり、これがマスターリース契約とて呼ばれることが浸透したことによるものでしょう。よくML契約と言われるものですね。

ここでは、形式上のマスターリースは除外して、純然たるサブリースについて考えてみることにします。
(本質は同じですが)

サブリースの種類

サブリースにもいろんな形式が考えられます。

直観的に図を用いて説明しましょう。

賃料保証型

ここでは、サブリース賃料が80に固定されているケースを見てみましょう。

下の図では、1~5年目まではエンドテナント賃料がサブリース賃料を上回っており、サブリース事業者が黒字となっています。
一方で6年目以降は、エンドテナント賃料がサブリース賃料を下回っており、サブリース事業が赤字(逆ザヤ)となっています。

※この逆ザヤとなった場合においても、固定賃料なのでサブリース事業者(賃借人)が賃料を逆ザヤ部分も補填するというのが原則ですが、事はそう単純ではありません。
後ほど説明します。

賃料変動型

管理型とも言われるスキームであり、エンドテナント賃料から一定の管理手数料的な金額を控除してオーナーに支払われます。
ここでは、一定額を控除する想定としていますが、賃料に一定率を乗ずるスキームもよく見られます。
証券化スキームにおけるマスターリースに多い形態です。

最低賃料保証型

上記の固定型と同様なのですが、最低保証賃料が設定され、それを上回る場合は変動賃料となるスキームです。
ここでは単純化していますが、実際には一定程度の管理料が控除されるのが一般的です。

サブリース物件評価の留意点

さて、上記のようにサブリース賃料の設定方法は様々ありますが、ここでは賃料固定型スキームにおける様々なリスクについて考えてみたいと思います。

借地借家法32条の問題

まず不動産賃貸借契約に関する重要条文借地借家法32条を見てみましょう。

(借賃増減請求権)借地借家法32条第1項
1.建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

よく読んでみると不動産オーナーにとっては非常に惨いことが書かれています。

サブリースも賃貸借契約なので、この借地借家法32条が適用されます。

プロとアマで不平等でないか!という声も聞こえてきそうですが、サブリースにも借地借家法32条の適用があると最高裁判例もあるぐらいです。

逆に条文の最後の部分を見てみましょう。更にオーナーにとって惨いことが書かれています。
「一定期間増額しない特約は有効」と書いているので、逆に言えば、「減額しないという特約は無効」と言っているのです。

サブリース事業者から賃料の減額訴訟が相次ぐというのはこの条項が根拠になっているのです。

定期借家契約とすれば

上記の賃料増減額請求権は、一般の借家契約(普通借家)であれば強行規定(他の特約で排除できない規定)なので、オーナーにとって賃料減額リスクを内包した契約とならざるを得ません。
ただ、契約を定期借家契約にすれば、そのような硬直的な運用を排除することが可能となります。

定期建物賃貸借 借地借家法38条7項
7 第三十二条の規定は、第一項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。

このように定期借家契約にすると賃料増減額請求権がオーナー、サブリース事業者側からも排除できるので、サブリース期間中において完全に賃料を固定することが可能となります。
(ただし、オーナーにとっても賃料の増額の請求もできなくなるので諸刃の剣とも言えましょう。)

しかしながら、事業用不動産であり、かつプロ間においては定期借家契約によるサブリースはよく見られる形態ですが、残念ながら、一般のサブリース契約の雛形は「普通借家」契約となっており、どうしても賃料減額リスクを排除できない内容となっているが一般的です。

契約解除について

契約解除について見ても、サブリース契約は借地借家法の適用があることから、賃貸人からの解除には正当事由が必要とされ解除が難しい一方で、賃借人からの解除は比較的容易な契約となっているのが一般的です。

そんなバカな!という声が聞こえてきそうですが、ルールなので仕方ありません。

サブリース物件評価について

普通借家契約におけるサブリース賃料の留意点をまとめると次のようになります。

・エンドテナント賃料>サブリース賃料の場合
サブリース事業者は赤字に陥っていない正常な状況であり、サブリース事業者からの賃料減額のインセンティブは殆ど考えられず、
サブリース賃料の増額の交渉や裁判により、サブリース賃料を増額させていくということも可能でしょうが、建物は経年劣化で継続賃料は下落していくものなので、増額はかなり困難でしょう。

・エンドテナント賃料<サブリース賃料の場合
これが困った事態です。サブリース事業者が赤字を垂れ流しており、サブリースの事業自体が危うくなっている状況です。
かぼちゃの馬車問題は、これが建築当初から端的に現れたのですが、アパート建設+サブリース物件でも経年劣化や市況の悪化などで逆ザヤが長期間に及ぶ物件が多く見られます。

このような状況に陥った場合に考えられるリスクは、大きく2つあると言えましょう。

・借地借家法32条を楯に賃料減額訴訟を起こされるリスク
・契約が解除されてしまうリスク(そもそも破綻されてしまうリスク)

つまり、サブリース賃料が確実に収受できると限らないというリスクが顕在化していくことになります。
特に、建物の老朽化による賃料下落リスクを考えると、超長期における賃料減額が発生しないというシナリオがそもそも間違っていると言えます。

これを先ほどの固定賃料スキームの図を目盛りを変えて見てみましょう。

この図では、1年目から5年目はエンドテナント賃料>サブリース賃料となっているため、サブリース賃料をベースとして収益を勘案すべきでしょう。
しなしながら、6年目以降は、エンドテナント賃料<サブリース賃料となっていることから、サブリース賃料よりも更に低いエンドテナント賃料に収斂していくというリスクを勘案すべきとなります。

どの程度勘案するかは、契約内容、事業者の与信、マーケットの動向などから論理付けが必要ですが、簡単ではありません。
(正直この辺りは百人の不動産鑑定士がいれば百通りの答えが出る世界です)

以上のようにサブリースはマーケットが好調のときは、みんなハッピーなスキームですが、市況が悪化すると一気に泥沼化するというリスクの高いスキームであると言えます。

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