不動産コラム 不動産投資

不動産の投資指標について

今回は不動産投資の指標について「利回り」を中心として考えていきたいと思います。

不動産と金融が融合するにつれ、不動産投資利回りの概念も細分化され、様々な投資利回りの考え方が浸透しました。

不動産業界の中でも、開発系や流通系に従事する人には、これらの投資指標について日常的な業務で触れることが少ないでしょうから、不動産業界で生きるものとして最低限知っておくべき利回りについて今回は解説してみたいと思います。

特に、投資系不動産を取扱う事業者や担当者自身が、各種の利回りをきちんと認識していないと痛い目にあいますので、ここで頭を整理してみるのも有用だと思います。

違うレベルの利回りを語って後々のトラブルになるのはプロ間でもよくある話です。

なお、ここでは不動産投資の利回りを念頭に置いて解説いたしますが、一般の債権投資、株式投資などの金融商品等の利回りにも共通する部分がありますので、投資に興味ある方には是非ご一読ください。

NETとGROSS

GROSS利回り

一般に街の不動産屋が言っている利回りは大体がGROSS利回りのことです。

GROSS利回りとは、月額賃料×12÷物件価格であり、賃料に対する物件価格の単なる割合です。

このGROSS利回りは殆ど意味がありません。

よく、地方の築古物件で利回り12%超とか言っていますが、大体がこのGROSS利回りです。

経費率が異なる不動産に関して言えば、GROSS利回りは殆ど意味がないです。

NET利回り

一方で、意味のある利回りはNET利回りです。

NET利回りとは、(月額賃料‐経費)×12÷物件価格であり、その不動産の真の収益力を表現するものです。

不動産の所有者が負担すべき経費としては、例えば区分マンション投資の場合ですと、修繕積立金、管理費、固定資産税・都市計画税、火災保険がかかります。

土地価格、建物の状況など物件によってまちまちですが、感覚的な経費率としては、地価の高い都心の区分マンションの場合、20%程度、地方の区分マンションの場合ですと30~40%というのが相場でしょう。

これを考えると、地方の物件のほうがNET利回りが低かったという笑い話はそこら中で起こっています。

つまり、不動産投資の世界ではNET利回りを語らなければ意味がないということです。

ここで注意が必要なのは、賃料が下落するリスク、経費が増大していくリスクを不動産投資の場合、精査しておかないと数年後にはトンでも物件となってしまったということは十分にあり得ます。

償却前と償却後

減価償却費とは、会計上、税務上において、実際は支出していないが支出したものと見做して経費にするという会計ルールであり、実際支払っていない経費を損金として計上できるという税対策上のメリットがある制度です。

例えば、木造のアパートが富裕層の投資として好まれるのは損金算入率が高いということも挙げられます。

このように不動産投資では、税務上減価償却を経費計上できるのが一つの税金対策になります。

そこで税務上の損益である減価償却費を控除した償却後の収益を当該物件のキャッシュフローと勘違いしている人が時々います。

一般に不動産投資の指標としては、減価償却費を控除せずに、一方で実際にかかる修繕費や資本的支出(設備更新などの大規模修繕コスト)を控除するキャッシュフローベースにて査定するのが正しい考え方です。

つまり不動産のキャッシュフローとは償却前純収益なのです。

税前と税後

ここでいう「税」とは法人税又は所得税のことです。

個人で不動産投資する方では、不動産所得の計算上、不動産収益から不動産経費を控除した不動産所得を計算し、それに税率をかけて所得税を納めます。

当然ながら、最終の儲けは所得税を支払った後の収益となります。

ただ、不動産の価値査定の場合、一般的にこの所得税、法人税は考慮外とするのが一般的です。

理由としては、法人税、所得税はその法人又は個人によって税率が異なることや会計上との整合性が挙げられます。

ここで注意したいのは、不動産価値判断上の損益(又はキャッシュフロー)は所得税・法人税控除前の税前なのですが、実際に税金をどの程度支払って手元にどの程度「カネ」が残るかということも不動産投資にとっては重要なファクターなので、税前と税後の両方を睨んだ価値判断が必要ということだけ理解いただければ十分です。

レバレッジ前とレバレッジ後

不動産投資の醍醐味は、借入金(ローン)を借りてレバレッジが掛けられることです。

レバレッジとは、低い借入金にて不動産投資資金を調達することにより、実際に手持ち資金(エクイティ)の利回りを上げることを言います。

そう考えるとフルローンの住宅ローンは、手持ち資金数万円で、投資利回りが数%に及ぶ不動産を投資できるという究極のレバレッジだと考えます。

ちなみに、株式投資も実はレバレッジ後のものを買っているということになります。
なぜなら企業は通常借入金を調達して企業運営していますから。

更に言えばJREITもレバレッジ後の商品です。

話を現物の不動産に戻すと、不動産投資の場合は、レバレッジ前の物件自体の利回りとレバレッジ後の自己資金ベースでの利回りを両睨みしながら投資をしていくという考えが必要です。

不動産価格が安定している際においてレバレッジを深く掛けると大儲けできますが、逆に経済が悪化した際のロスは半端なくデカいです。
(レバレッジが深いとは、借入金をパンパンに借りること、極端な例はフルローンです)

このような不動産価格の下落期においては、自己資金(エクイティ)が全損して、更に下落分の債務が残るという最悪の状況に置かれます。

不動産賃貸事業者の破綻は大体において高レバレッジによる無理な不動産投資が殆どです。

なお、不動産の投資価値算定の場合はレバレッジ前のキャッシュフローにて算定します。

NOIとNCF

上記で説明したネット利回りを細分化して把握したものがNOIとNCFです。

それぞれの定義を堅苦しく説明すると

NOI(Net Operating Income)
・上記で解説した償却前純収益とほぼ同じ
・毎期安定的に得られる不動産運営から得られるネットキャッシュフロー
NCF(Net Cash Flow)
NOIから資本的支出を控除したものネットキャッシュフロー

資本的支出とは仰々しい言葉ですが、建物躯体を維持していくのに必要な大規模な修繕費と考えてもらってOKです(通常、ファンドなどでは積立します)。

NOIとNCFの違いについては、一般の投資家の方は無視してもいいと思いますが、不動産投資顧問会社に勤務する方は知らないと恥をかきます。

あとJ-REITに投資する方は、鑑定評価書を読める基礎知識として知っておいたほうがいいかもしれません。

内部収益率IRR

ここまで、いろんな利回りを見てきましたが、不動産投資で最も重要な利回り概念であるIRRをここでは解説します。

IRR的思考は不動産投資に限らず、投資の世界では極めて重要です。全て赤文字で強調したいぐらいです。

IRR(Internal Rate of return)とは日本語で内部収益率と訳されていますが、この訳がイケていないと思います。直訳すぎます笑

IRRを堅苦しく定義すると次のようになります。

IRR(Internal Rate of return)
投資期間中のIncome Gain(Loss)と物件を再度売却した場合のCapital Gain(Loss)を総合した最終結果としての利回り

例えば、NET利回りが高い物件でも、物件価格がずるずると下落する場合は、最終的に損するというのは感覚的に分かりますね。

逆に、NET利回りが極端に低くても、バブルが発生して物件価格が当初価格の倍で売れた!などのケースでは大儲けできますよね。

ここで例示した前者のケースがIRRが低いケース、後者の場合がIRRが高いケースとなります。

ここで難しいのは、当たり前ですが将来の価格は誰も分からないということ。

ただし、一定程度の合理的な予想をすることは可能だと考えます。

例えば将来的に人口減少が予想されている地方の立地がイマイチの中古アパートはどうでしょう?

将来価格は確実に下がることが予想できますよね。

ここでアパマン投資家の成功者の本を読んでこれから地方に参入していく方は、相応の目利きが必要なので分かっていただけると思います。

一方で、素人はやはり都心の築浅の低利回りマンションに投資すべきだというのが私個人の考えです。

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