まず、不動産の収益とは何ぞやというところから考えてみましょう。
賃貸不動産の収益構造
収益還元法は、不動産が生み出す純収益を還元利回りで還元して価格を算定する手法でしたね。
では今回はこの純収益について考えてみましょう。
損益とキャッシュフロー(CF)
会計上の利益とキャッシュフロー(以下、CF)の違いをここで説明しておきます。
企業会計を勉強したことがある方は、会計上の利益とCFが異なることをご存じでしょう。
結論から言えば、収益還元法にて用いる「純収益」はCF(※)となります。
※ただし、不動産鑑定評価における「純収益」は完全にキャッシュフローと一致しないことに注意が必要です。例えば、「貸し倒れによる損失相当額」という疑似的なCFを計上することがある。
減価償却費と資本的支出
不動産の純収益とは、償却前純収益とも言われます。
この「償却」とは建物・設備等の減価償却の部分に当たり、この減価償却費を不動産CFの査定では考慮しないということになります。
一方で、不動産CFの査定に当たっては、会計上において貸借対照表(BS)に計上される「資本的支出」の支払を計上することになります。
資本的支出とは仰々しい言葉ですが、建物躯体を維持していくのに必要な大規模な修繕費と考えてもらってOKです(通常、ファンドなどでは積立します)。
会計上はBSに計上され、減価償却の対象となるようなものです。
例としては、エレベーターや空調設備の更新費用、外壁の打ち直し工事費用などの資産性のある工事代金に該当するものです。
以下、不動産価格査定に当たって重要となる会計上の損益とCFの違いを整理すると次のようになります。
元本と金利
不動産投資では通常、ローンを活用してレバレッジを掛けた上で不動産を購入しますね。
巷のアパマン投資本では、ローンの元金返済と金利返済後の手元に残るものをCFと呼んでいるものも多く散見されます。
確かに、投資家からすればローン返済後の「手元に残るおカネ」が大事なのは重要な要素ですが、不動産価格査定においては、このローンの影響を全く考慮外とする必要があります。
全額自己資金で投資するケースとローンで調達するケースでは、不動産の価格自体は変らないという大前提が収益還元法ではあるということを覚えておいてください。
※実際には、全額自己資金の投資家の意思決定スピードが速いことから安く買えるチャンスは高いことはあります。
一方で、不動産会社のPLには金利返済がBSには元本返済が記帳されることになります。
以上のように、不動産の収益価格査定における純収益は、次のような特性を持つことになります。
減価償却前
ローン利息控除前
ローン元本控除前
税金控除前
企業価値算定の際のEBITDAと同じ考え方ですね。
EBITDAは、Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortizationの略であり、日本語に直訳すると、「金利控除前、税金控除前、減価償却前の利益」となります。
償却前営業利益などとも呼ばれますね。
この企業評価のEBITDAが不動産の評価上の「純収益」と考え方が同じなのです。
NOIとNCF
不動産の収益還元法に当たって採用される「純収益」は、結局、キャッシュフロー(CF)ベースであると説明しました。
更にややこしいことに不動産のCFには、次に説明するNOIとNCFという2つの概念が出てきます。
説明してしまえば単純なので、2つの違いをここできちんと押さえておけば十分です。
・上記で解説した償却前純収益とほぼ同じ
・毎期安定的に得られる不動産運営から得られる収益
NOIから資本的支出を控除したもの
つまり、NCF=NOI-資本的支出となりますね。
上記で述べた通り、資本的支出とは資産計上される大規模修繕費のことでしたね。
通常、不動産鑑定評価の純収益はNCFベースとなります。
ここで注意が必要なのは、利回りにも表面(グロス)利回りとネット利回りがあったように、NOIベースでの還元利回りとNCFベースでの還元利回りがあるということになりますね。
例えば、利回り調査などのアンケート調査で示されている利回りがNOIベースなのか?NCFベースなのかは非常に重要です。
これらを間違って採用してしまうと、上記の説明での資本的支出相当分をダブルカウントしたり、抜け落ちて査定してしまうことになります。
以上、不動産の純収益は「償却前CF」ベースにて査定することを原則としていることを理解した上で、次回から収支項目の査定の議論に入っていきたいと思います。
まずは、収入の査定について考えていきましょう。